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「X家」対「 Y家」、村の派閥争いに巻き込まれ…5回移住を繰り返した漫画家が語る、「地方移住」のしんどい現実

2023/05/15
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『これが田舎か…』役場の対応に衝撃を受ける

「電話に出た女性にサイトを確認させて『ほら、田んぼと畑について載っていますよね?』と相談しました。最初はその女性も『確かに載ってますねえ』とか言ってたんですが、急に電話口の相手が女性から男性に替わったんです。彼は『聞いてますよ。あの態度の悪い漫画家さんですよね』という口ぶりで話してきました。

 私はムッとしながらも先ほどのサイトを見るように言ったんですが、その男性は『そんなこと書いていませんよ』と言うんです。呆れながら、サイトを更新してみると、田んぼと畑に関する情報が削除されてるんですよ! 私の電話中に、その男性職員がサイトの該当部分を書き直していたのです。

 大家は地元の権力者のような存在だったんで、役場にも手を回していたんでしょうね。大家以外の周辺住民は優しかったんですが、『これが田舎か……』と衝撃を受けました。その後も大家とはそりが合わず、半年ほどで引っ越すことにしたんです」

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 次に移住したのは標高1400mの高地。そこは前述の大家のような人間関係ではなく、自然環境に打ちのめされた。

2度目の移住先。標高1400mの高原にある住まい(市橋俊介さん提供)

「そこはエベレストに登る前の登山家らが予行練習をするような場所で、とにかく寒いんです。冬にマイナス25度を記録したこともありました。寒冷地なので農業も春から夏にかけて一瞬しかできない。移住して農業にも挑戦することが編集部からのオーダーだったのですが、正直農業ができないと漫画のネタにもならないので、すぐに引っ越しました。ただ漫画の問題がなくても、あの寒さには耐えられなかったと思います」

限界集落で、またもや人間関係トラブルに

 3度目の移住先は関東地方の限界集落だ。そこは山間のどんつきにある集落だった。

「山の斜面という感じの立地なので、畑を耕しても耕しても石ばかり出てくるんです。しかも、雨が降れば土砂流が発生して、作った畝(作物を作るために細長く直線状に土を盛り上げたところ)も流されてしまいます。農業のプロの人に話をしても、『もはやそこは畑じゃないよ』と言われる始末でした」

 ただでさえ厳しい環境だったが、ここでも人間関係の問題が市橋氏に降りかかってきた。

「私が住み始めると意外と受け入れてくれる人もいて、今でも付き合いのある人もいるくらいです。ただ、やはり限界集落だけに、一筋縄ではいきませんでした。

3度目の移住先。山間の限界集落の様子(市橋俊介さん提供)

 その集落では古くからの家同士の仲違いが代々続いていて、XさんとYさんの派閥のような感じになっていたんです。そんなことを知らない私は最初Xさんと仲良くなりました。さらに他の住民の方と親睦が深まるにつれて、今度はYさんとも仲良くなると、当然Xさんはおもしろくない。次第に、Xさんからは無視されるようになりました。

 やはり、派閥はどこの地域にもありますが、移住してくるとそうしたパワーバランスはわかりませんからね」

 自然環境と、いにしえからの人間関係に疲弊した市橋氏は、3年で次の引っ越しをする。今度は閉ざされた集落から一転し、観光も農業も盛んな八ヶ岳の麓の自治体だ。しかし、そこで直面したのは“ゴミ出し問題”だった。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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