文春オンライン
人種問題だけじゃない…『ファイナルファンタジーXVI』が国内外で“賛否両論”を呼んだ“納得の理由”

人種問題だけじゃない…『ファイナルファンタジーXVI』が国内外で“賛否両論”を呼んだ“納得の理由”

2023/07/09

genre : エンタメ, 娯楽

note

 各地には「マザークリスタル」と呼ばれるエネルギー源が存在する。人々はここからクリスタルを掘り出し、炎・氷・風などの魔法を利用している。

マザークリスタル

 このマザークリスタルは、原子力発電所のメタファーだと考えられる。魔法を使う際には「エーテル」と呼ばれるエネルギーを消費するのだが、これが濃くなってしまうと生き物に有害な物質と化してしまうという。

 また、各国は「召喚獣」という抑止力を持っている。これは特定の人間が巨大な生物に変身する強大な力で、本作のプロデューサー自身が「核兵器のような存在」と表現している。

ADVERTISEMENT

 さらに、本作には「ベアラー」と呼ばれる被差別階級が存在する。ベアラーたちはクリスタルなしに魔法を使えることが原因で、奴隷として扱われている。自由に喋ることもできず、ただ命令に従い魔法を使うしかないのである。

ベアラー

 このように、『FF16』はエネルギー・核兵器・人種差別といった問題にも触れているように見える。実際、昨今の大作ゲームは現実の問題を反映することもしばしばあり、だからこそシリアスなストーリーが描けるわけだ。……と思いきや、『FF16』においてこれらの設定は羽のように軽い。

暗くて重い設定を軽く扱ってしまう物語の姿勢

 筆者が『FF16』で最も良いシーンだと思ったのは、少年時代の主人公がベアラー(奴隷)と遭遇したときのエピソードだ。

 あるとき、奴隷が果物を落としてしまい、それが主人公の足元へ転がってくる。奴隷の主人はそれを見て平謝りし、奴隷はただ命令に従って頭を下げるのである。主人公はその様子を見て、かわいそうだとは思いつつも慰めの言葉をかけるくらいしかできない。

 主人公は王族であり、奴隷たちの労働力の恩恵を最も受けている存在といっても過言ではない。奴隷を哀れに思っても、この時点では積極的に助ける必要はないのである。外国人技能実習生やエッセンシャルワーカーの苦労を知りつつも具体的な行動には至らない、われわれにも通じる残酷な状況をよく描けている。

 この描写はともすれば刺激的な皮肉で素晴らしいと思ったのだが、実は『FF16』にはその主人公の態度が全編にわたって染み渡っている。「見てみぬふり」をずっと続けるのだ。

 特に筆者が目をおおいたくなったのが、奴隷に関連するサブクエストである。