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「最寄り駅」があまりに“非日常な駅”になったら…? ずいぶん“ハリー・ポッターっぽくなった”「豊島園」をめぐる“魔法の話”

豊島園の1世紀 #2

2023/07/17

genre : ビジネス, 企業

note

「古くなったから更新する」のがリニューアルではない

 こうしたこだわりのもとになっているのは、「駅は地域のもの」という五味さんの思いだ。

「みなさん地元の方は、自分の庭のように思ってくださるんですよね。『ウチの駅がさ』みたいに。駅のリニューアルって、自分の庭をいじられるような感覚だと思うんです。だから、そういう方たちの思いを大事にしたい。すべてを叶えるのは難しいですが、できるだけみなさんのご意見、ご注文を聞くようにしています。

 ただ駅が古くなったから更新する、というのではなくて、この駅には何が求められているのか、どんな町の駅なのか。本来は機能を新しくするだけでいいのかもしれませんが、それでは通過するだけの駅になってしまう。プラスアルファの要素を、どんな駅でも提供していく。そしてそのプラスアルファは駅によって違うので、それをしっかり深掘りしていくことが必要かなと思っています」(五味さん)

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 そういう意味では、ハリー・ポッターの豊島園駅も基本的なことは何も変わらない。五味さんは、「としまえんみたいに長く愛される駅になって欲しい」と思いを語る。

「スタジオツアー東京で瞬間的に注目を浴びる。でも、それだけではなくて、長く愛される駅になってほしい。お子さんが大人になって、『自分の駅のホームには汽車があったんだよ』って語れるような。駅も町も一緒に時を刻んでいくので、いつになってもホッと出来る空間になればいいなと思ってデザインに落とし込んでいます」(五味さん)

色んな人が使う「駅」というもののリニューアル

 そんな五味さんにとって、思い出の駅とは――。

「父方の祖父の家が、福岡の大牟田にあるんです。小さい頃に亡くなっているので、ほとんど行ったことはないんですが、最近出張で近くに行く機会があり、足を延ばしてみました。

 20年ぶりくらいに大牟田駅に行ったら、駅の外観はほとんど変わっていなくて。ああ、懐かしいと子どもの頃を思い出しました。でも、ホームの中はだいぶ変わっていて、キレイになっている。変わらない懐かしさと、新しく変わっている良さと。そういう価値も大事にしていきたいなと改めて感じました」(五味さん)

 駅のリニューアル。言葉にすれば簡単だし、何気なく利用しているお客の立場からすると、「へえ、キレイになったねえ」くらいなものだ。

 だが、その駅を取り巻く町の本質を探り、懐かしさと新しさと楽しさのバランスを取り、昔から駅を使う人にも、これから使う人にも心地よい空間を作り出す。その繊細な作業が、駅リニューアルに求められているのかもしれない。スタジオツアー東京の開園で生まれ変わった豊島園駅の新しい姿は、それを実現したひとつの形、なのである。

 

写真=鼠入昌史

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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