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ツキノワグマの捕獲に向かった研究者が体験した“恐怖の6時間” 「大型哺乳類研究者の死因ナンバーワンは…」

『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』より #1

2023/07/27

genre : ライフ, 社会

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 25年間にわたってクマの糞を拾い続け、ツキノワグマの謎に包まれた生態を明らかにしてきたクマ博士である小池伸介氏。同氏が数奇な研究人生の中で、体験した出来事を紹介した『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(辰巳出版)が話題を呼んでいる。

 ここでは、小池氏が実際に体験したツキノワグマの捕獲に関するエピソードを同書より抜粋して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©AFLO

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世界のクマたち

 海外のクマ調査の話をする前に、世界にはどんなクマがいて、どんな分布をしているのかを説明しようと思う。

 まず、世界には現在8種類のクマがいる。最も寒い場所に住んでいるのが、ご存じ真っ白なホッキョクグマである。このクマは「シロクマ」とも呼ばれているが、正式な名前は「ホッキョクグマ」だ。ちなみに、ホッキョクグマの毛は白色ではなく透明で、地肌は黒い。光の乱反射で真っ白に見えるのだ。

 ホッキョクグマは、クマの中では最も体が大きく、体長は成熟したオスで2.5m(鼻先から尾までの長さ)、体重800kgにもなる。生息地は北極海を中心とした地域で、1年の大半を海に浮かんだ氷の上で過ごし、主な食べ物はアザラシである。近年では地球温暖化などによる氷の減少で、十分にエサを取れずに数を減らしていることが問題となっている。

ヒグマは肉食でなく、ツキノワグマと同じ雑食性

 日本では北海道だけに生息しているのがヒグマだ。世界で最も広く分布しているクマで、生息できる環境も日本のような森のほか、アラスカや北極圏近くのツンドラ地帯と呼ばれるあまり植物が生えていない場所、ヒマラヤのような高山や砂漠など、さまざまな環境に適応している。

 北アメリカに生息するヒグマの一部はハイイログマやグリズリーとも呼ばれている。

 体長はオス2m、メス1.5m、2本の足で立ち上がれば巨人のように大きく、体重もオスが150~400kg、メスは100~200kgとけた違いに大きい。

 古くは7名が犠牲になった三毛別羆事件、最近では多くの乳牛を襲って酪農家に損害を与えたOSO18のせいで、人や家畜を襲う猛獣のイメージが広く定着している。

 そのためヒグマを肉食だと思っている人も多いだろう。しかし、実はツキノワグマと同じ雑食性で日本のヒグマは木の実や草を主に食べる。

 私は北海道の知床でヒグマを見たことがあるが、やはりツキノワグマはヒグマと比べて少しおとなしいんだなと実感した。また、ロシアではヒグマとツキノワグマが同じ森の中で暮らしているが、そこではツキノワグマはヒグマに対して少し身構えているというか、こっそり生きているような印象があった。