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「構成の巧みさにやられた」市川沙央さん“創作の原点”アニメーション作品の監督が明かす〈芥川賞作品『ハンチバック』の凄さ〉

『地球へ…』『薄桜鬼』シリーズ・ヤマサキオサム監督インタビュー

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「構成の巧みさにやられました」

 まず、市川さんの『マリ・ワカ』への思いについて尋ねると「伝えたかったことを理解してもらった」と喜んだ。

「あの作品は『磁石と電気の発明発見物語』という科学者たちの業績を紹介した児童書が原典です。実在の科学者たちがどのように苦労して今に繋がる功績をのこしてきたかを子供たちに伝える番組で、放送時間も土曜朝7時。一般的なアニメファンはほとんど見ていないと思っていたので、市川さんのインタビューには驚きました。

「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」 公式HPより

 第7話はモールス符号を発明したサミュエル・モールスの回です。『人は解らないことだらけなんだよ。でも、考え続けているといろいろなことが繋がり合って突然解る時がくる。それを物理学では相転移というんだ』という台詞があります。

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 その一番伝えたかった『相転移』の知識を糧に、市川さんが創作活動を続けてこられていたと知り、胸熱でした」

 受賞作となった『ハンチバック』で最も印象に残ったシーンについて聞くと、ヤマサキ氏は自らの体験と照らし合わせて語った。

「主人公の日常描写のシーンです。読みながら胸が痛くなりそうでした。アニメ監督という仕事柄、小説や脚本を読むと具体的な映像が浮かぶんですが、実は私の父親も晩年、気管吸引していた時期があり、小説内の呼吸器の脱着などは映像がリアルに蘇ってきました。『あの時父はどんな事を思っていたのか?』と、主人公の独白をたどるたびに、思いを巡らせました」

『ハンチバック』

 自らの作品で脚本も書くヤマサキ氏。『ハンチバック』の素晴らしさについて、こう評価する。

「なんといっても構成の巧みさにやられましたね。導入の掴みが刺激的で『こんな始まりで大丈夫か?』と恐る恐る読み進めていくと、いきなり現実の生活に切り替わる。この落差で一気にドラマに引き込まれました。読み終わった直後、『ええぇーっ! そう来るの!?』と声が出てしまいました(笑)」