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「給料が上がらないのに物価高、岸田、何とかしろ!」国民の生活はキツくなるが…それでも物価高騰が“悪”とは言い切れないワケ

『これからの時代に生き残るための経済学』より #2

2023/08/04

genre : ライフ, 経済, 政治

note

経済は単純な勝ち負けではない

 今、自分が損をすること(見えるもの)と経済がよくなること(見えないもの)は全く違うという場合が多々あります。

 円安になると輸入品は高くなります。それで「悪い円安」などと言われたりする。

 ボクシングの元世界チャンピオンであるフロイド・メイウェザーが来日中に豪遊したり爆買いしたりしているのを見て「円が安いからドルで買い叩かれて、ムカつく」のように言う人もいます。でも、別の見方をすれば、メイウェザーが大金を日本に落としてくれているということです。モノが売れているのですから、喜ぶべきことではないでしょうか。

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 かつてはモノが売れずに輸出業界がひどく悩んだはずなのに、どちらに転んでも悪く言いたがる人達が多くて困ります。

 大昔、重商主義の時代は、貿易赤字は負けという考え方でした。今でも重商主義者が、あちこちに健在のようです。経済は、誰かが勝って誰かが負けるというような単純な勝ち負けの話ではありません。

 儲かれば勝ちなのが経営でしょうが、マクロ経済では、社会全体を見なければならないのです。

国と個人は違う

 国の借金が膨大であるという話をよく聞きます。 

 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる「国の借金」が6月末時点で1255兆1932億円だったと発表した。3月末から13.9兆円増え、過去最多を更新した。国民1人あたりで単純計算すると、初めて1000万円を超えた。債務の膨張に歯止めがかからず、金利上昇に弱い財政構造になっている。

『日本経済新聞』2022年8月11日付

 昔から「国の借金がこんなにある。国民1人当たり、うん万円。大変だ。なんとかしなくては~」の一本調子で、耳にタコです。最近では反佀の声も大きくなってきて、ウソを信じない国民も増えていますが、まだまだ根強い信仰です。

 政府の借金とは、現代日本の場合、国民からの借金です。

 たとえるなら「倉山満事務所が倉山満からの借金を返さなければならないか」という問題に似ています。

 倉山満事務所というのは、倉山満という人が過半数の株式を有するオーナー企業です。倉山満事務所が、モノを購入し、領収書をもらい、倉山満が払います。それを繰り返すと借金がつみ重なり、事務所は倉山満から多額の借金をしているという状態になります。それ、返さなければいけないのでしょうか。自分で起業してみて、はじめてわかったことですが、財布が2つになるだけです。一応、法律上は定期的に借金を返さねばならないのですが、ボーナスみたいなものです。オーナーの倉山満さんは、また倉山満事務所にお金を貸してあげています。

 個人と会社では経済的感覚が異なります。まして国の経済に個人の感覚を持ち込むと、ロクなことがありません。そして敵はそんなことは十分承知で「個人の感覚」に訴えてくるのです。十分に注意しましょう。