最近、「世の中は変わらない」と投票に行かない国民が多い。その結果、経済政策の基本も分からない政治家が国政に携わってしまうことになる。すると、どうなるか。利上げ、増税、規制強化が待ち受け、ローンの利子は上がり、税金も容赦なく上がり、無駄に行動を制約される。どんなに働いても給料が上がらない世界になってしまうのだ。

 ここでは、経済学の基本をわかりやすく記した倉山満氏の著書『これからの時代に生き残るための経済学』(PHP新書)より一部を抜粋して再編集。経済を知らない政治家と政治家をだましたがる官僚の本末転倒な関係を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

写真はイメージ ©️AFLO

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乗数効果がわかっていない?

 政治家のコンプレックスを象徴するようなエピソードがあります。

 2010(平成22)年1月26日の参議院予算委員会で、菅直人財務大臣の話です。

 当時は野党だった自民党の林芳正氏に、「子ども手当の乗数効果はいくらか」との質問を受けました。菅財務相はトンチンカンな答弁をし、同僚の長妻昭厚生労働大臣も仙谷由人国家戦略担当大臣もまともに答えらませんでした。そして、「乗数効果は、高校生が学ぶ、きわめて初歩的な経済理論なのに民主党の経済閣僚はわかっていない」と揶揄されました。

 民主党に政権担当能力がないことが、公衆の面前でバレてしまった瞬間でした。テレビで生放送されています。国会中継など誰も見ていませんが、ネット世論が取り上げ、大騒ぎになります。

 当時は「反民主党」というだけでウケる時代でしたから「ほれ見ろ。民主党ってこんなにレベルが低いんだぞ!」と拡散されます。そのうち地上波でも取り上げられて、民主党は何もできない人たちの集まりであるというイメージが全国民についていきました。

 この場合、菅直人の何が罪深いか。

「菅直人が乗数効果ごときを知らなかったこと」と思ったら、あなたは官僚の罠にはまっています。

 菅財務大臣は「そんなことも知らないのか」と責められましたが、正直なところ「乗数効果」ってそんなに有名な概念でしょうか?