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「野球をやりたくない日も…」852日ぶりの1軍マウンドで涙を流したヤクルト・山野太一の苦しみと喜び

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/08/31
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 みなさん、残暑お見舞い申し上げます。東京ヤクルトスワローズ広報の三輪正義です。いやぁ、9月の声を聞こうかというこのごろですが、暑いですねぇ。僕は暑さには、灼熱の戸田グラウンドで鍛えられたせいか、大変強いほうだと自負しております。この夏も子どもたちを市民プールに連れてったり、毎日ランニングをしたりと、外で活動しているせいか、すっかり日に焼けてしまいました。

TOKYO燕プロジェクトで配布された携帯用うちわ便利ですね! ©三輪正義

 先日、幕を閉じた、夏の甲子園もテレビでチラチラと見ていましたが、この暑さのなか、全力でプレーする球児たちには本当に頭が下がります。僕が高校野球をやっていた20数年前とは暑さのレベルが違います。プロ野球も2軍は屋外でデーゲームがありますが、僕が現役だったころとはちょっと違う暑さですから、選手は体調管理が大変でしょう。

 甲子園といえば、地元・山口県のチームの試合などを観ていました。結果は1-4で初戦突破ならず。優勝候補の一角の花巻東に善戦しましたが、力負け。しかし、1歳8か月となった三女はテレビに映る佐々木麟太郎くんをはじめとした球児を見ては「パパ! パパ!」とご機嫌です。僕がかつて野球をやっていたことを感じ取っているのか!? それとも理解できるようになった? と感激しましたが、その後、世界陸上を見てもアメリカの短距離選手を指差し、「パパ! パパ!」と言っていたのを見て我に返りました。

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地元・山口出身の期待の星が戦列に鮮烈復帰!

 山口と言えば今月、僕にとって大変うれしいことがありました。以前このコラムで少し触れたこともありましたが、僕と同郷の山口県出身、3年目の左腕、山野太一がついにプロ入り初勝利をあげました。

 8月1日、東京ドームの巨人戦に先発。7回83球を投げて、4安打無失点。852日ぶりの1軍マウンドで見事に勝ち投手となったのです。

プロ初勝利を挙げ、高津臣吾監督と笑顔を見せる山野太一 ©時事通信社

 さかのぼること2年半、山野のプロ入り初登板は’21年4月1日の横浜スタジアムでのDeNA戦でした。先発のマウンドに立つも、1回1/3、5安打7失点と「プロの洗礼」を嫌というほど浴びて降板。その後、味方の反撃もあり敗戦投手にはならなかったものの、防御率47.25という投手にとっては重い数字だけを残しました。

 その後、捲土重来を誓うものの、上半身のコンディション不良で1軍登板なし。

 ’20年ドラフト2位で入団。’21年の開幕当初は「先発6番手」として僕も大いに期待をしていました。しかし、昨年オフに育成契約となり、背番号も「21」から「013」に。

つねに状態を気にはかけていたが……

 実は、地元の後輩とあって、僕の企画にも協力してほしかったのですが、試合で投げられないうちに、動画に出すのはやはり気が進まず。山野もどういう顔で出ていいかわからないだろうと思い、いつしか彼の元に行くのをためらっていました。

 思えば’20年の入団会見のとき、山野のお父様から、山野の少年野球時代の監督が、僕が社会人で軟式野球をやっていたときの監督さんだと聞かされて驚いたり、山野本人からは、なぜか実家に僕のサインがあるけど、「誰がもらってきたか全くわからないんです」と打ち明けられたり(俺のサインは山口県内でそんなにたらい回しにされているのか……)と違う意味で驚かされたりしたこともありました。

 さらには、山野の地元の山口市と、僕の地元の下関市、どっちが都会か? などと軽口を叩いたりと、とにかく気にかけずにはいられない後輩でした。

復活のマウンドにドキドキ

 育成契約となってもあきらめずにコツコツ努力する姿。今年に入って実戦に復帰し、2軍で防御率1点台と好投していることを目にして嬉しくなったものです。そして、7月14日、支配下契約を勝ち取ると、背番号も「26」という、最近では左腕投手が背負ってきた番号で再スタートを切りました。

 それから半月後の8月1日、満員の1軍の東京ドームのマウンドに立った山野。プロ入り2度めの先発の相手は巨人のエース菅野智之。これ以上ない相手に燃えたのでしょう。6回まで巨人打線に凡打の山を築かせ0-0の緊迫した展開に。しかし、味方は7回表に内野ゴロの間に虎の子の1点をもぎとったのです。2アウト1塁で、打席が回った山野。当然代打かと思いきや、髙津臣吾監督は山野をそのまま打席に送りました。

 そして、7回裏のマウンドに上がった山野は、秋広優人、丸佳浩、大城卓三の左打者3人をしっかり打ち取り、髙津監督の期待に応えました。7回83球、4安打、失点0。勝ち投手の権利を持って降板後も、8回清水昇、9回田口麗斗の先輩がしっかり締めて1−0での勝利! 痺れる試合に強心臓でならす僕もテレビの前でドキドキが止まりませんでした。

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