プロに入るためではなく、プロで活躍できる身体作りをしてきた男

「自分の目標は、全打席ホームランです」

 2022年、ドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団した澤井廉選手。

 中京大4年の時、彼は取材カメラに向かって堂々とこう言いました。

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「【軸】【重心】【脱力】のどれかが崩れると自分の場合は打球が飛ばないので。毎日理想のスイングができるように追求していくだけです」

 と、鏡を見ながら自分の筋肉にその動きを覚え込ませるように、何度も何度も入念にバットの軌道をスロースイングで確認する。

 そうかと思えば、フリーバッティングの際には930グラムもある練習用バットを使い、一球ごとに

「シュッ」
「ヨイショ!」
「オリャー!」

 と声を上げながらのフルスイング。

 趣味は筋トレで、サプリメントや栄養学の勉強をするのも大好き。

 身長180センチ。中京大中京高校時に80キロだった体重は、プロに入る頃には100キロになっていました。

澤井廉

ドラフト3位指名に悔しさをあらわに

 プロに入るためではなく、プロで活躍できる身体作りをしてきた澤井は、愛知大学野球一部リーグでは2019年春に新人賞、2021年秋には最優秀選手、ベストナイン4回(外野手3回、指名打者1回)と文句無しの成績を残します。

 しかし、結果は3位指名。

 ドラフト後の会見では、

「1位を目指してきたので悔しい気持ちもある」

 と、包み隠さず自分の想いを語ってくれました。

「対戦したい投手は?」と聞かれると、

「後輩の高橋宏斗(中日)と対戦したい」

 と、プロ入りわずか3年目でWBC優勝戦士へと登り詰めた中京大中京の2年後輩にメラメラと闘志を燃やしました。

「アピールポイントは?」という質問には、

「やっぱり【打撃】というふうに自分では思っています。その中でも【インパクトの強さ】というのは自信があり、誰にも負けないというふうに思っています」

 としっかりと答えました。

 これからプロの世界に飛び込むその前に、「誰にも負けない」と言える強さ。

 話をしている時に漲るその目力の強さ。

(この選手はただ者ではないぞ)と感じました。

“プロ1号”がグランドスラム

 そして、その日はすぐにやってきました。

 2023年3月24日、少し靄がかかったヤクルト戸田球場。

 6-9で迎えた5回裏、2死満塁。

 8番打者は、赤と白のストライプに身を包んだ背番号42。

 1ストライクからインサイド寄りのストレートを一閃。

 打球はあっという間にライトスタンドに飛び込みました。

 “プロ初ホームラン”が逆転のグランドスラム。

 まるで吉田正尚(レッドソックス)が打ったかのような放物線。

 二軍の試合ではありましたが、すさまじい衝撃でした。

二軍で17本のホームラン

 4月18日のロッテ戦で初めて4番に座ると、二軍で放ったホームランは17本(8/22現在)。

「自分の目標は、全打席ホームランです」

 プロ入り前に立てた目標を変えることなく、全くぶれることなく突き進んでいる。

 だからこそ、そんな澤井廉が放つホームランは、本当に美しいんです。