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遠征が30試合連続…ホークス3軍は“超過酷ロード”で何を得たのか

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/09/08
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2023年は3・4軍合わせて229試合に

 3軍打撃部門を担当する大道典良コーチはこのように言う。

「3軍は基本的に将来的に化けるかもしれないという育成選手が主体で、高卒2、3年目の子も多いです。かたや相手は大学生といえども今度のドラフトで1位指名が確実視されるような投手。つまり即戦力で来年は1軍で最初から活躍しているくらいの力を持っているということ。年齢的にも大学生投手の方が上のケースもあるし、攻略するのは難しいのです。

 ただ、3軍にいる連中もそういう投手を打っていかないとこの世界で食っていけないということですからね。やられっぱなしではダメです。ただ、彼らは経験も少ない。そのような一線級に近いボールを打席で見て、対決ができるのは本当に財産になったと思います。その意味ではこの遠征の中でも、特に大学の強豪チームとやれた試合は大きかったと思いますよ」

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 森山良二3軍監督も「移動もあり、タフな選手を育てていくという意味では良かったと思いますし、何より『経験』が大きいですよね」と話した。

 ホークスのファーム組織は今季から4軍制の導入に伴い、ウエスタン・リーグ以外の「非公式戦」はかなりの数が増えた。

 非公式戦は2021年が80試合だったのが2022年(4軍設立準備のため「拡大3軍制」と球団は呼んでいた)は140試合に。そして今年2023年は3・4軍合わせて229試合が組まれる予定でスケジュールが調整された。

 ホークスでは「練習だけで選手の能力を伸ばすのは難しい」との考えに基づき、「基礎的な体力や技術は必要。しかし何より試合を経験していくことで選手たちのモチベーションが高まるし、成功体験も得られ、試合の中から反省も生まれ、責任感も出てくる」と、実戦を通じた選手育成を大切にしている。

 これまで数々の育成枠出身スター選手を輩出してきた実績からも、その手法による成果は発揮されているといえるだろう。

 とはいうものの、一定の練習量はやはり必要だ。ビジターチームの場合は練習時間や場所の確保も難しくなる。特に野手はギリギリの人数で試合を行っていたために「バットを振り込む量はたしかに少なくなったが、いい投手とたくさんの対戦をできた経験の方が大きかったのではないか」(森山3軍監督)と問題はなさそうだったが、懸念したのは投手の方だった。

寺原コーチと談笑する森山監督 ©田尻耕太郎

「1軍に行くために、休んでいる暇はないんだよ」

 実際どうなのか。ある若手投手に訊ねてみると「若田部さんの特別メニューがあるんです。それが結構ハードで。毎日キャンプみたい。遠征中の今が一番(練習が)きついかも」と声を潜めて明かしてくれた。

 3軍投手部門を担当するのは若田部健一コーチと寺原隼人コーチの2人。試合中にベンチに入るのは寺原コーチで、若田部コーチはブルペンも見ながら選手たちの練習のケアにも多くの時間を割いていた。

 たしかにリブワーク藤崎台球場でも、試合前練習(フリー打撃の時間)が終わると数人の投手が球場外に出ていき、一般客もすぐそばを通るスペースにシートを敷いて、そこで体幹トレーニングを始めていた。顔をゆがめ、必死の形相で行っているのを見れば、それが効果的なトレーニングであることはよくわかる。

 若田部コーチに「毎日キャンプみたいな、かなりハードなメニューをやっていると聞きました」と訊ねると、「何言ってんだよ。当然のことをやっているだけでしょ」と少しムッとされてしまった。だけど、そのまま丁寧に取材に応じてくれた。

「今年の3軍は試合が多くなって、遠征が多くなる。その中で選手たちをどうやって鍛えていくかを考えれば、試合(遠征)先でもしっかり練習をしないと。そうしないと成長が遅れてしまうし、上に追いつけない。単純な話。当たり前のこと」

 ホークスは12球団の中でもフィジカルトレーニングにはかなり力を入れている方だ。その甲斐もあって豪速球を投げる投手はファームでも珍しくはない。

 ただ、若田部コーチは言う。

「トレーニングコーチのメニューは、それはそれでしっかりやってもらう。僕はピッチングにつながるようなトレーニング。(チーム方針の)体を大きくするとかとは、また別です。だから選手はハードだったかも。でも当たり前の話ですよ。1軍に行くために、休んでいる暇はないんだよ」

若田部コーチのメニューをこなす選手たち ©田尻耕太郎

 そんな様子を見て、そして若田部コーチの話を聞いて「おっ!」となった。こんな話とこの光景、数年前の倉野信次コーチ(現/米大リーグ・レンジャーズ傘下のマイナー球団の投手コーチ)の“魔改造”を思い出すではないか。

 知名度が高いわけではない育成選手や未熟な選手が急激に成長していくのを何人も見てきた。

 最近のホークスはやたら「ボールが強くて、速いだけ」の投手が増えている。この先、3軍から、骨のある投手が出てきてくれるのではないか。そんな期待をしたくなった。

 なお、ホークス3軍は9月9日~11日までは本拠地のタマスタ筑後で3連戦を行うが、14日にはまた遠征に旅立つ。今度の行先は海外だ。10日間で9試合の韓国遠征に臨む。

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