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「嫌がらせか!」贈答品として贈ると激怒され…美味しさバツグンの福島県産“モモ”が風評被害から抜け出せない“理不尽な理由”

桃に風評被害があって、ピーマンにはない理由#1

2023/09/12

genre : ライフ, 社会

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 ピンクのパッケージに「ありが桃(とう)」と刷り込んだ2個入り。福島は困難を乗り越えてきた県であることから、縁起物として夫婦やカップルへの贈答用になるのではないかと踏んだ。

 さらに化粧箱で販売する6個入りも案として出した。

 果たして、消費者はどのような反応を示すのか。

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 2023年7月下旬、東京。「髙島屋」新宿店の催事場と地下食品売場で、福島県庁と同店が協力したフェアが催された。この場では1個入りの青いパッケージと、2個入りのピンクのパッケージが販売された。

試験販売された1人用の青いパッケージと2人用のピンクのパッケージ(福島県産品フェア、「髙島屋」新宿店)

 都内に住む52歳の男性は、青いパッケージの桃を買った。「暑い中、汗を流しながら買い物に来て、自分へのごほうびにと買いました。まんまと福島県の戦略に引っ掛かった感じすね」と笑う。

 福島県には旅行に行った時、宿で紹介された喜多方ラーメンの店で食べてファンになった。この日も喜多方ラーメンのセットを買った。福島県産の桃は意識して食べたことがなかったが、「少しでも復興に寄与できればという思いもあって買ってみました。美味しかったらインターネットなどでも注文できるでしょう。今日は取っかかりです」と話していた。

 男性の父親は福島県のゴルフ場の会員権を持っている。だが、原発事故後は足が遠のいた。「今もまだ積極的には行きたくないようです。そうしたバリアを取り去るためにも、この桃が美味しかったら、親に買ってあげたい」と帰宅していった。

 2個入りのピンクのパッケージを「これからお邪魔するお宅への手土産に持っていく」と買った女性もいた。

風評による安さが魅力という皮肉

 ただ、バラ売りを買う人が圧倒的に多い。「他県産より安いですよね」と5個買った60代の女性もいた。風評による安さが魅力になっているという皮肉な現実が見えてくる。

桃がどんどん売れ、どんどん補充されていた(福島県産品フェア、「髙島屋」新宿店)

 フェアに訪れた福島県庁の吉田主幹は「銀座の果物販売店にも行ってみましたが、岡山県産の桃は福島県産より1.5倍も高く売られていて、愕然としました。これが実態です。でも、私達はそれほどの価格差をつけられるような桃ではないと品質に自信を持っています。新たなパッケージ商品で風穴を開けていきたい」と意気込んでいた。

 髙島屋側でフェアを担当した桑原慎太郎マネジャーは、「福島県産の桃はすごく売れます。今年は昨年に比べて120%ほどの売れ行きでした。外国人にも人気で、特にアジア系の旅行者は宿泊先で食べるのだそうです。福島県産品は桃以外でも、高品質なのにブランド力がまだまだという部分があります。そうした面で私達がお手伝いしたいと考えています」と話していた。

 県庁が進める新しいパッケージ戦略には、一つの大きな問題がある。

桃農家の平均年齢は約70歳

 箱詰めは産地の共同選果場で行われるので、新しいパッケージを導入するにしても、地元の負担が重くなる。ところが、選果場の従業員は60~70代が多く、しかも出荷の最盛期には夜まで作業を行うほど忙しいので、どこまで対応できるか不透明なのだ。