依然として風評被害が払拭できない福島県の農産品。だが、なかには風評被害を乗り越えられた産物もある。ピーマンだ。全国平均より高い値段で取り引きされている。なぜなのか。風評被害が続く「桃の事情」(#1)に続き、「ピーマンの事情」を探る。
福島県は浜通り、中通り、会津の3地区に分けられる。人の動きの中心になっているのは中通りだ。県都の福島市や30万都市の郡山市があり、新幹線も走る。太平洋に面し、東京電力福島第一原発がある浜通りとの間には、山々が連なる。
阿武隈高地である。
同高地の三春町や田村市はピーマンの一大産地だ。寒暖の差が大きい中山間地で栽培されることから、甘味が強くて柔らかいと定評がある。
「市場の評価も高く、もっと生産してほしいと言われているんです」。JA福島さくらの「たむら地区」でピーマン専門部会の部会長を務める佐久間良一さん(69)は誇らしげだ。そして「風評被害は脱却できたと思います」と言い切る。
感覚的な話ではない。データで証明されている。
なぜピーマンは風評被害を脱却できたのか?
福島県産ピーマンの東京出荷が増える7~9月、東京都中央卸売市場の市場統計情報によると、2022年のキロ単価は福島県産が388円だったのに対し、全国平均は379円だった。前年に引き続き2%以上高かったのだ。
これには野菜特有の生産形態と小売りの事情が影響していると、福島県農産物流通課の吉田安宏主幹は見ている。
「ピーマンは季節によって全国で産地リレーが行われ、年間を通じて一定の生産量が維持されています。冬期は宮崎や高知。春から茨城が増えて、福島は7~10月です。この時期に東京都中央卸売市場で取り扱われるピーマンは、茨城・岩手の量が多く、その次が福島の順になります」と解説する。
3県のピーマンが入り交じって流通するのに、それぞれ価格を変えて売るのはかなりの手間だ。特に小売りでは混乱しかねない。「結局、どの産地のピーマンも同じ値段で売られます。桃のように1個当たりの値段が高くないので、わざわざ差をつけないのです」と吉田主幹が分析する。
しかも、福島で出荷が最盛期になるのは、ピーマンが本来の旬を迎える夏から秋だ。ビタミンCが多く含まれる時期でもあり、緑濃く実ったピーマンを食べると、暑い季節に耐えられるだけの体力がつくような気がする。つまり、人が食べたくなる時期に、福島の場合はハウスではなく露地が栽培の中心になる。単価が全国平均を上回っている理由の一つかもしれない。
ただし、産地としては山あり谷ありだった。原発事故でも深い傷を負った。知られざる努力があったからこそ「今」があるのだ。
廃れる一方だった農業を変えたピーマン
福島はかつて全国有数の養蚕県だった。1899(明治32)年に日本銀行の支店が東北で初めて福島市に設けられたのも、欧米向けに良質な生糸を確保しようとする商人が多くの拠点を設けていたからだった。
阿武隈高地の農業は養蚕が盛んで、葉たばこの生産にも力が入れられた。