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 自動灌水とは言うものの、かなりの作業が必要になる人もいる。タンクに水を入れなければならないからだ。「水利が乏しい場所では、井戸や水道で水を移動用のタンクに入れ、そこからピーマン畑のタンクに移すのです。畑に灌水するためには、この作業が何度か必要になります」と松崎係長は話す。

ソーラー自動灌水システムのタンク

 しかも、単に水に流せばいいというものでない。佐久間さんは「阿武隈高地なので、畑は平坦ではありません。傾斜があれば、水は灌水が始まる上部と、流れてたまる下部でやりすぎになり、別の障害が発生してしまいます。どこに合わせて水をやるか。どんなタイミングで灌水するか。システムを入れただけではダメなのです。ピーマンや土壌の状況を見極め、ちょうどいい水分が与えられるよう経験を積む必要があります」と語る。

 さらに、この地区では実質的に女性が主導しているピーマン農家が多いのが特徴だ。

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 佐久間さんは「もちろん夫婦で取り組んでいて、機械作業や力仕事は男性が担当しているケースが多いようです。でも、収穫や選果で力を発揮するのは女性です。技術の指導会に参加するのも半数が女性になっています」と言う。

 きめ細かな選果が品質への評価に直結しているのを考え合わせると、女性の力はかなり大きい。

 こうした品質への信頼が風評被害を払拭する原動力にもなり、今ではむしろいいイメージでとらえられているようだ。例えば、食品メーカーの永谷園はJA福島さくらとコラボし、ピーマンを使って麻婆春雨を作れば美味しく食べられるというキャンペーンを2年連続で行っている。

 佐久間さんは「ピーマン専門部会で市場関係者にセールスに回ると、非常に高く評価してくれていることが分かります。『もっと出荷してほしい』と要望されるほどなのです」と顔をほころばせる。だが、その時に「『はい、分かりました』と力強く答えられないのが悩み」と話す。

ピーマン農家が抱える高齢化という問題

 農家が高齢化して、生産者が減っているのだ。

 現在230戸程度。震災の翌年からすると約100戸も減少した。

 佐久間さんは妻、そして90歳になった母と3人で、22アール(2反2畝)程度を栽培しているが、「私も70歳になります。生産者の平均年齢もそれぐらい。日本の男性の平均寿命は81.05歳でしょう。あと10年もしたら、今はばりばり働いているピーマン農家がかなりいなくなる計算です。毎年10人程度の新規就農者はいても、同じぐらいの農家がやめていくのです」と語る。

佐久間良一さんのピーマン畑。妻、母と3人で作業を行う

 新規就農者対策を担当している松崎係長の上司、佐藤耕司・営農課長は「地元の事情や親の苦労を知っているUターン者は覚悟を決めて就農しますが、完全な新規就農の若手は厳しい現実になかなか続かない例もあります。テレビ番組で放映される夢のような話ばかりではありません」と指摘する。

 これまで幾多の困難を乗り越えてきたピーマン産地。

 新たに直面している危機も、また乗り越えられると信じたい。