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“結婚が当たり前の世界”が今なぜ女性に刺さるのか? 「令嬢系ジャンル」が見つけた「受け身なのに溺愛」という理想の形

“結婚が当たり前の世界”が今なぜ女性に刺さるのか? 「令嬢系ジャンル」が見つけた「受け身なのに溺愛」という理想の形

2023/12/22
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男性は「やれやれ」、女性は「気づいたら溺愛されていた」

――ゲームやラノベ的な異世界で格上男性と恋愛をする、というのが「令嬢系」の基本の形なのですね。男性向けラノベだと主人公はやる気がないいわゆる「やれやれ系」が定番な印象ですが、主人公の女性はどういうタイプが多いんでしょう。

坪井 女性向けの場合は、周囲にいじめられても反発せず、苦しい状況をじっと耐える健気なタイプがポピュラーです。行動的というよりは受け身だけど、芯は強い。自分を投影するというよりは、応援したくなるキャラクターが多いです。

――一昔前の朝ドラヒロインのようですね。となると、恋愛にはやっぱり鈍感で奥手?

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すず木 「気づいたら溺愛されていた」という形が圧倒的に多いです。自分から男性にアプローチする作品もありますが、受け身なのに好きになってもらえる方が読んでいて気持ちいいんですよね。

「きみ愛」のイケメン王子が頬を赤らめる

 なので王道パターンは、主人公が持ち前の優しさで自然に接しているだけなのに、男性側がその優しさに気づいて好きになり、どんどんのめり込んでいく……というものの。最初はクールでかっこよく見えた男性が、「どうしたら彼女に好きになってもらえるだろう」「好きすぎてどうしていいかわからない」と葛藤・苦悩する表情が愛でるポイントです。

坪井 なのでヒロインは適度に鈍感なのが大切で、「仕事が大変そうだったので、お料理作っておきましたよ」みたいな愛され行動もあくまで天然。男性の好意に気づくのもゆっくりで、そのじれったさも含めて「もう絶対好きじゃん!」と楽しめるんです。

 

――男性向けでいう「パーティ追放」や「チートスキル」のような鉄板の設定もあるんですか?

すず木 婚約者に婚約破棄されて急に地位を奪われるのは1つのテンプレですね。舞踏会で別の女性との結婚が発表されて主人公がドレスを破られて屈辱を受けて……のようなドン底から始まり、新しい恋愛的な意味でも立場的にも本当の王子様に見染められて幸せになったり、自分を捨てた男性とそれを奪った女性を見返す、という復讐ものに近い形です。主人公の善良さを引き立てる意地悪な義理の母や姉のような女性キャラも多いですね。

「亡き王女と瓜二つの令嬢は第一王子との契約結婚を迫られる」では美人の姉が主人公の邪魔をする

坪井 契約結婚も昔から定番です。契約結婚で始まるけれど一緒に暮らすうちに男性に溺愛されたり、もともと男性側が主人公を好きだけど本心を隠すために契約結婚を装うケースもあります。

すず木 作品数が増えるにつれて、いろいろな設定やオプションが加わって進化も続いています。“和風”令嬢系と言える『わたしの幸せな結婚』は、主人公に不思議な能力がある“異能系”。他には聖女や皇女パターンもあり、そこに追放要素や知識チート要素が絡むこともあります。それでも、不遇な境遇に置かれた善良な女の子が、高貴な男性に愛されて幸せになる基本の形は共通しています。