女性向けwebコミックにおいて大人気になっている「令嬢系」というジャンルをご存知だろうか。
「令嬢系」とは、「没落貴族の令嬢が、位の高い王様や貴族の男性と政略結婚し、一緒に暮らすうちに徐々に心を通わせていく」という設定・展開を基本フォーマットとするカテゴリーのことだ。
近年はその基本フォーマットから様々な派生作品が誕生し、「スタンダード令嬢」「悪役令嬢」「異能系令嬢」などが生まれているが、「位の高い男性に溺愛される」というのが多くの作品で共通するポイントだ。
大手電子書籍ストア「ブックライブ」の2023年のランキングでも、「少女・女性マンガ」部門の上位10作品のうち5本を「令嬢系」が占めている。
1位の『「きみを愛する気はない」と言った次期公爵様がなぜか溺愛してきます』(漫画:水埜なつ、原作:三沢ケイ)や、3位『虐げられ令嬢とケガレ公爵~そのケガレ、払ってみせます!~」(作者:廻)をはじめ、4位、6位、8位とトップ10の半分を占めているのだ。
一大ジャンルとなった「令嬢系」は、一体どのようにして生まれたのか。そして女性たちの支持を集め続ける理由はどこにあるのか……。年間2000冊の漫画を読む「書店員すず木」さん、ブックライブのweb広告運用を行うマーケティング担当の坪井さんに聞いた。
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ランクの高い貴族や王族の男性と恋愛をするのがストーリーの基本
――大人気の「令嬢系」ですが、いつ頃生まれたものなんでしょう。
すず木 現在ブームの「令嬢系」の源流は、実は男性向けラノベ作品にあります。『ソードアート・オンライン』(2009年※表記は単行本の発売開始時期)などの「俺TUEEE系」と言われる、主人公が無双する作品群です。その後、投稿サイトの「小説家になろう」で広がった「異世界転生」ジャンルが女性向けにも波及し、「なろう」から『誰かこの状況を説明してください!~契約から始まるウェディング~』(2013年)や『虫かぶり姫』(2016年)などの恋愛ものが生まれました。投稿サイトで人気になった小説がコミック化、アニメ化されるのは男女共通ですね。
坪井 『誰かこの状況を説明してください! ~契約から始まるウェディング~』などの初期作品は“スタンダード令嬢”と私たちは呼んでいます。舞台は中世ヨーロッパ風の異世界で、女性主人公がランクの高い貴族や王族の男性と恋愛をするのがストーリーの基本。主人公は転生する場合も元からその世界の住人のケースの場合もあります。ただ男性の貴族階級が主人公より高いケースが多いので、主人公は男爵などヒーローよりも格下の階級であることが多いです。