女性向けwebコミックにおいて大人気になっている「令嬢系」ジャンル。

「令嬢系」とは、「没落貴族の令嬢が、位の高い王様や貴族の男性と政略結婚し、一緒に暮らすうちに徐々に心を通わせていく」という設定・展開を基本フォーマットとするカテゴリーのことだ。

 近年ブームの作品群は男性向けのラノベを源流に派生して「スタンダード令嬢」「悪役令嬢」「異能系令嬢」など多くの形が生まれたが、「俺TUEEEE」「あらゆる女性に愛されてハーレムを作る」などの男性向けとは全く異なる特徴を持っている。

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「令嬢系」コミックはどのようにして独自の進化をたどったのか、年間2000冊の漫画を読む「書店員すず木」さん、ブックライブのweb広告運用を行うマーケティング担当の坪井さんに聞いた。

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

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男性と女性では「無双の形」が違うんです

――男性の「異世界転生」ジャンルと言えば、最強の主人公に転生して無双したり、複数の女性からモテまくってハーレムを作るような作品も多いですが、女性を主な読者として成長した「令嬢系」の主人公たちはなぜ「無双」しないんでしょうか。

すず木 実は「令嬢系」の主人公たちも「無双」はしているんですよ。

――えっ、そうなんですか?

すず木 無双の形が違うんです。男性は戦う力や経済力、頭の良さで無双するのに対して、女性は「人に愛される」という形で無双するんです。主人公が「愛されたい」と思った相手には確実に愛されますし、周囲の人々からも慕われ、尊敬されます。男性が物理的に無双するとすれば、女性は心理的・人間関係的に無双してると言ってもいいと思います。

令嬢は力ではなく、「愛される」という形で無双する 『「きみを愛するつもりはない」と言った次期公爵様がなぜか溺愛してきます』

――なるほど、フィールドが戦闘ではなく恋愛というだけで、ちゃんと無双はしているんですね。ではハーレムを作ることも?

すず木 ハーレムはほとんどないですね。複数の美男子や王子様から恋愛感情を向けられること自体あるんですが、主人公が好きな相手は基本的に1人だけ。そこは男性向けと明確に違うところだと思います。たった1人への愛を貫く、一途でピュアでブレないキャラクターが、女性読者にとって共感しやすいんです。

坪井 「令嬢系」は結婚の存在感がとても大きくて、前提となるケースが多いです。1人の男性とどう向き合っていくかという人間関係の変化がメインです。色んな人にモテるまでは良くても、主人公がふらふらすると不倫や浮気になってしまって、イメージが良くないんですよね。どちらかというと私も、「男性ってあんなにハーレムを作りたいんだ」と驚きました(笑)。