――ハーレムを作る男性主人公は、男性の願望に見えますよね(笑)。ところで素朴でピュアで奥手だけど周りから愛される女性が主人公に多いということですが、読者にとってその女性は「なりたい」という対象なのでしょうか?
すず木 「なりたい」というよりは「応援したい」という気持ちの読者が多い気がしますね。レビューでも「良い子だから報われてほしい」「良い行いをしていれば、ちゃんと良いことがありますよね」というコメントはよく見かけます。「悪いことをした人は裁かれてほしい、性格のいい人間は幸せになってほしい」という因果応報のような感覚はあると思います。
――道徳や童話のような雰囲気も?
すず木 多少あるかもしれませんね。そういう意味では、「令嬢系」の主人公は王子様1人だけに愛されていればOKではなくて、お城の執事やメイド、町人など周囲の人にも全方位で愛される必要があります。反対に、ヒロインをいじめるキャラクターたちは最終的にはすべてを失って全員に見限られることが多いです。
「『令嬢系』ってSNS社会みたいだなと思うこともあるんです」
――男性向けでは「君だけがわかってくれていればいい」という作品もちらほらありますよね。
すず木 そういう作品は女性向けでは少数派ですね。いくら王子様に溺愛されていても、それ以外の全員から嫌われている状態は気持ちよくなれないですから。
坪井 私は、「令嬢系」ってSNS社会みたいだなと思うこともあるんです。
――どういうことでしょう?
坪井 たとえば貴族たちの舞踏会のシーンというのは定番のシチュエーションなのですが、婚約破棄やドレスを破られるなどの事件は「みんなの前」で起きるんです。婚約破棄を伝えるだけなら部屋で1対1で伝えればいいはずですが、周囲からの評価も大切なので、舞踏会という衆人環視の状態であることが大事。
そうすることによって物語の中での権威や屈辱がまして、辛さも幸せも倍増する。何が起きるかも大切ですが、周りの人にどう思われるかがより大切なのは「令嬢系」の特徴の1つだと思います。
――男性向けではそのために策略を巡らせたり、恋愛でも手管を使って計算高く女性と近づいたりするケースも多いですが、「令嬢系」の主人公たちがそういう“裏働き”をすることもあるんですか?