――よく聞く「悪役令嬢系」は少し毛色が違いますよね?
坪井 「スタンダード令嬢系」は舞台は異世界ですが、ストーリー自体は普通の恋愛小説に近く、携帯小説やハーレクインなどのいわゆる「ベタベタな恋愛小説」の流れをくんでいます。一方で「悪役令嬢」は男性向けラノベやゲームの影響をより強く受けていて、異世界転生ジャンルの女性向け版として生まれています。時期的には2019年から目立ちはじめて2020年にブレイクしたイメージですね。
すず木 「悪役令嬢」はもともと乙女ゲー(男性を攻略する女性向けの恋愛ゲーム)やマンガに出てくる悪役の女性のことで、かなりゲームっぽい世界観を引き継いでいます。本来であればゲームの主人公ヒロインに負けて破滅する女性キャラに転生してしまい、破滅を回避してハッピーエンドを目指すのがテンプレの形です。
「悪役令嬢」の主人公が鈍感というより合理的な理由
――ゲームの「あるある」を逆手に取った設定のぶん、前提知識はある程度必要になりそうですね。
すず木 普通の恋愛小説として読みやすい令嬢系よりも、少しコアな層を狙ったジャンルではありますね。
代表作には『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった』(通称「はめふら」)があります。「映画の中で『戦争が終わったら結婚しよう』と言う人が死ぬ」のような、いわゆる“破滅フラグ”満載のゲームの世界に転生した女性主人公が、一生懸命フラグを回避する物語です。次々表れる「あるある」な破滅フラグをどう避けるかのハラハラ感、回避できた時のスッキリ感が人気です。
――「スタンダード令嬢系」では鈍感で奥手な主人公が人気とのことでしたが、「悪役令嬢」はもうちょっとコミカルで必死なんですね。
坪井 ゲーム的な世界に現代人が転生しているので、主人公は純朴というよりは客観的に考えて未来を計算することが多いですね。ヒロイン役の女性に意地悪をすると破滅が近づいてしまうので、人助けをするのも優しく振舞うのも自分が生き残るため、という合理的な面が強いです。
――「悪役令嬢系」では敵役になる、本来のヒロイン側はどう描かれるのでしょうか。ちょっとややこしいのですが……。
すず木 (笑)。例えば『はめふら』だと、悪役令嬢に転生した主人公がヒロインをいじめる代わりに助けようとすることで、人間関係が大きく変化していきます。悪役令嬢を見限ってヒロインと結ばれるはずだったイケメン王子様が悪役令嬢のことを好きになり、ヒロインも悪役令嬢を慕うようになります。全員が幸せな世界が訪れるんです。
――1周まわって「スタンダード令嬢」のような形に(笑)。