すず木 「悪役令嬢系」の主人公は偶然その役に転生してしまっただけで、本人の性格が悪いわけではないですからね。いいことをしたら周囲の人からも王子様からも好かれるのは同じです。「みんなに好かれる、応援したくなる性格」が読者の共感には必須なんです。
――フラグ回避的なゲームっぽさの要素と、その先にある恋愛要素がくっついているのですね。
すず木 他には、本来のヒロインが実は性格が悪く、可愛く気弱なふりをしているだけというケースもあります。見方を変えたら世界が全然違って見える面白さが悪役令嬢の特徴ですね。
――「令嬢系」の読者層は女性が多いのでしょうか。
すず木 ブックライブでいうと、令嬢系のコミックは30~40代女性が突出して多いです。
坪井 「スタンダード令嬢系」は特にそうですね。レビューでも「スカッとできて楽しかった」「キュンキュンして生活に潤いが出た」といったものが多く、安心感のあるわかりやすい面白さを求める傾向が強いです。
逆に「悪役令嬢」系はコア層が多く、ゲームやアニメの知識が豊富な読者なので人気が出る作品の傾向も全然違います。恋愛要素が強い「悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される」などは女性読者が圧倒的に多いですが、ゲーム要素が強い「はめふら」は男性読者も多いです。
「結婚して2人は幸せになりましたとさ」を求めている読者は今も多い
――それほど違うのに、どちらでも「結婚」が物語の中心的な要素になっているのが興味深いです。
坪井 恋愛ストーリーのわかりやすいパターンはやっぱり「結婚して2人は幸せになりましたとさ」という形なんですよね。その形を求めている読者は今でもとても多いんです。とはいえ現代が舞台のお話で結婚を押し出されると急に身近になってしまって重たい。それよりは異世界の貴族社会という「結婚が当たり前」の場所の方が、自分と切り離して楽しみやすいんだと思います。
――王子様、お姫様というのは永遠の憧れですからね。
坪井 高貴さ、豪華さがわかりやすいのもポイントだと思います。「令嬢系」では、男性に溺愛される象徴として天蓋付きのベッドやキラキラしたドレスは定番アイテムです。これが現代だとブランドのバッグとか急に生々しくなってしまう(笑)。それに「高貴な身分の男性」というキュンポイントも表現が難しくて、若手社長とか、人気アイドルとなると無意識に実在の人物と重ね合わせてしまうリアリティが出やすく、恋愛ストーリーに集中するのは難しいかもしれません。
すず木 多少わざとらしくても、「あくまでファンタジーですよ」という安心感は大事です。頭をからっぽにして恋愛エンタメを楽しむための舞台として、異世界は最高の発明ですよね。