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紫式部は世紀の天才! 悲しい思いをさせるより実直な男がいい?

紫式部は世紀の天才! 悲しい思いをさせるより実直な男がいい?

人生というもの深く問いかける『源氏物語』を読まない手はない

2024/01/07

source : 文春新書

genre : エンタメ, 歴史, 教育, 読書

note

紫式部は世紀の天才!

――紫式部自身、夫を早くに亡くして宮仕えをし、『源氏物語』を書いた。その人生が作品世界を深くしていると思いますが、他に紫式部の才能はどこにあると思われますか?

木村 とにかく小説的に大冒険をしているところです。どのパートが最初に書かれたのか、どの順序で書かれたのか、真相はわからないのですが、五十四帖という長大な物語の中に緊密に伏線が張られて、それがすべて回収されていく。二十五帖の「蛍」には光源氏と玉鬘が物語談義をする有名な場面がありますが、そこでは紫式部の思いを仮託したような、近代小説を先取りするメタ物語論も展開されています。一条天皇をはじめとして、物語の続きを楽しみに待つ宮中の読者を抱えながら、緊張感ある中でこんな企みができた人は紫式部以外にいないし、現代の小説家たちも、同じようにその才に打たれるんだと思います。

玉鬘図(『源氏物語』画帖)
Tosa Mitsuyoshi, CC0, via Wikimedia Commons

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 やっぱり世紀の天才なんですよね。そして世紀の天才の作品を読まない手はありません。といってもそれはプルーストの『失われた時を求めて』やトルストイの『戦争と平和』を読まない手はないと言うのと一緒で、多くの人は読み通せないかもしれないけれども、実は家の本棚に置かれていたり、いつかは読み通したいと思っている類の本だと思います。