相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ……そのような関係性を「ポリアモリー」という。不倫や浮気とは違うのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。
ここでは、評論家であり「TBSラジオ:Session」のパーソナリティを務める荻上チキさんが、日本に暮らす当事者100人以上に取材・調査してその実態を伝える『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』(新潮社)より一部を抜粋して紹介する。
それぞれ他の男性と同居しつつ、お互いに愛し合って、共に育児もしている2人の女性が、現在の状況に至るまでの経緯とは――。(全2回の2回目/最初から読む)
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女性カップルを中心としたポリーグループ
大阪在住のMITSUさん、33歳。セミロングの髪型で、白地のTシャツを身につけている。表情には、穏やかさと共に、凛々しさがある。時折、手を顎に寄せながら、じっくりと言葉を選ぶ。自分の思考を捉えることに誠実な印象がある。インタビュー時には、長文のレジュメを準備していた。
同じく大阪在住のKisaraさん、41歳。ベリーショートの髪型で、明るい服装をさらりと着こなす。多くの本を読む読書家。少しスローなテンポで、それでいてはきはきと話す。ニコニコと笑顔で話しながらも、言葉のひとつひとつに鋭さがある。彼女もまた、インタビューに備えて、コンパクトな資料を用意してくれていた。
MITSUさんと、Kisaraさん。二人の女性は、それぞれ他の男性パートナーと同居しつつ、お互いに愛しあって、共に育児もしている。10年以上前にオンラインで出会った二人は、今では近所に住み、子供を含めたポリーグループとして、日常的な交流を行っている。もちろん、それぞれのパートナーにも、ポリアモリーについての説明を重ね、対話と合意を積み重ねてきている。
この二人のポリー女性の言葉を紹介しながら、ポリアモリーにおける対話の重要性や、ポリアモリーにも内在する「ポリ規範(ポリアモリーとはこうあるべき、といった規範)」についても考えていきたい。
MITSUさんの場合――SNSがつないだ出会い
MITSUさんが最初に「複数の人を好きになった」と感じたのは、20歳頃。当時付き合っていた彼氏とは別に、「他にも恋愛をしてみたい」という気持ちが強くなったことがきっかけだった。相手に対して冷めたというわけではない。「一対一でずっとやっていく」ということに、行き詰まりを感じたという。
その後、彼氏以外の人ともデートを重ねてみたが、そのことを知った彼氏が激昂。「逆上した彼氏にレイプされましたが、当時は自分の中に罪悪感があったのと、付き合っていればセックスするのが当たり前という思い込みがあったためか、自分が暴力を受け、傷ついていると認められたのは、それから4、5年後でした。今思えば、不貞や多情に対する罰、つまり、ふしだらな女には罰が加えられて当然、という感覚があったのかもしれません」。
その後も彼氏とはしばらく交際を続けたが、モノガマスな恋愛に限度を感じ、一年ほどして別れる。その頃、当時流行していたSNS「mixi」で、今の恋人であるKisaraさんと出会う。同時に、ポリアモリーという言葉とも出会った。