相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ……そのような関係性を「ポリアモリー」という。不倫や浮気とは違うのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。
ここでは、評論家であり「TBSラジオ:Session」のパーソナリティを務める荻上チキさんが、日本に暮らす当事者100人以上に取材・調査してその実態を伝える『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』(新潮社)より一部を抜粋して紹介する。
妻と他の恋人と3人で暮らしたこともあるという文月煉さんは、それぞれのパートナーとどんなふうに関わってきたのか。妻のあすみさんに「嫉妬」の感情について聞いてみると――。(全2回の1回目/続きを読む)
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文月煉さんの場合――妻と恋人と三人で暮らして
文月煉さん、37歳。これまで様々な職業を経験しているが、現在は物書きとして活動している。31歳の時から、ウェブ上などで「ポリアモリー」「非独占愛」についての発信を続けている。検索すれば、noteやTwitterだけでなく、多くのインタビュー記事がヒットする。
幼少の頃から、複数の人を好きになる感覚のあった文月さんにとって、一つの転機になったのは、31歳の時だった。「東京グラフィティ」という雑誌で、恋人が複数いるという人たちが取り上げられていたのだ。
「その記事で、ポリアモリーという言葉が紹介されていたんです。気になって言葉を検索して、ああこれだと思って。その後、ポリーラウンジのことも検索で知って、参加してみたり」
言葉に出会い、自分で調べ、すぐさま他の当事者たちに会いにいく。自分と似たようなことを考えて、しかも実践している人たちがいると知ったことは、大きな衝撃だった。文月さんの頭に思い浮かんだのは、「あ、可能なんだ」ということだった。目から鱗が落ちるような体験だった。
「ポリアモリー」という言葉を知った時、文月さんはすでに、結婚をしていた。パートナーであるあすみさんは単身赴任をしており、遠距離状態にあった。文月さんは電話で、「僕はポリーだと思う」と伝えたら、「そうなんだ、いいんじゃない?」との返事。素っ気ない反応で、文月さんはやや肩透かしをくらった。
あすみさんは、文月さんに関心がなかったわけではない。もともと夫婦間で、「浮気してもアリだよね」と、オープン・マリッジに近い合意を交わしていた。そのことが、「反応の薄さ」の背景にはあった。
ポリアモリーという概念に出会ってから、「パートナーがいても、自分からアプローチしてもいいんだ」という選択肢があると文月さんは学んだ。さらに、ポリーラウンジなどで他のポリーと出会う機会を得て、あすみさん以外の人を好きになるきっかけも増えた。文月さんはその頃から、複数の恋人を作るようになった。
恋愛をするにあたって、最初は他の恋人のことを全て伝えなくてはならないと感じていた。
だから初めは、できる限りのことをパートナーのあすみさんに「報告」していた。
「嘘をつくことが苦手で、正直でいたいと思うんですよね。だから以前は、『浮気』ではなく、合意の上だということにこだわっていたし。その頃は、全部言う、という形で正直でいようとしていた」
だがしばらくして、相手に全部を説明する必要もないのではないか、と思いを改める。
「報告義務が生じると、それもまた独占的だなと思って」。ポリアモリーの関係であれば、相手に全てを報告しなくてはならないといったような、新たな規範が生じるのは、本末転倒だと考える。だから今では、自身の関係様式を、「ポリアモリー」「複数愛」ではなく、「非独占愛」と呼んでいる。