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「死にたい」と呟いた中学1年生の「私」を助けるために作った『ブルーを笑えるその日まで』

期待の監督 武田かりん

2024/01/21

source : 週刊文春CINEMA 2023冬号

genre : エンタメ, 映画

note

 大学に入り、なんとなく、映画の道に進んだ。当時、監督をやりたいとも、やれるとも思っていなくて、エンドクレジットの隅っこでいいから、ただ沢山の人と関わるものづくりがしたかった。だけど卒業制作で初めて監督をすることになる。私の初監督作は、見た目だけなら楽しく、上辺だけなら明るい、そんなコメディタッチの映画だった。それを観た先生は言った。「武田さんは、明るい人だね」

 “あの頃”の私が泣いているような、呼んでいるような、そんな気分がした。

武田かりん監督

他人事とは思えない10代の自殺

 “あの頃”のことを、私は今でもはっきり覚えている。それは例えば、中学1年生の、8月のある日。午前2時、つけっぱなしのテレビの、絶望の光が、ひとりぼっちの私を射した。私は、その日も朝が来るのが怖くて眠れなかった。鼻を啜る音も、どうでもいい深夜のテレビショッピングの音が掻き消していく。私がいくら泣いても、この世界に味方はいないのだ。「死にたい」、生まれて初めて口に出したその言葉は、私の1回目の自殺だった。

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 10代の死因で一番多いものは「自殺」だ。私はどうしてもその事実を他人事とは思えない。それは私自身も中学時代に不登校を、高校時代には自殺未遂を経験したから。そんな暗い過去は、私の一番の秘密だったが、自殺者数を目の当たりにして、私はこのコンプレックスを元にもう1本映画を作ることを決心する。次こそは、嘘をつかず、本当の私で戦おうと。そして2023年の春、3年越しにその映画は完成した。

 私は、今でも時々思い出して、空想する。中学1年生の、8月のあの日のことを。

 つけっぱなしのテレビの光が射す先で、その女の子は泣いている。生まれて初めて呟いた「死にたい」はきっと「助けて」だったんだ。それなら、私が助けに行く。映画という、タイムマシーンに乗って。