変声期の中学生がヤクザに突然歌のレッスンを頼まれ、カラオケで一緒に歌の練習をする。あり得ない設定ながらも大きな共感を集め、スマッシュヒットを重ねた和山やまの原作漫画『カラオケ行こ!』を実写映画化。日常生活の中で接点を持たないであろう異色な組み合わせのふたりが、歌で繋がり不思議な関係を築いていく過程を丁寧に描き出した。
原作のファンタジーさはむしろ映像向き
「和山さんの原作は、一見リアルな日常を描いているようで、まったくあり得ない状況を描いています。中学生がヤクザと一緒にカラオケボックスに行くなんて、自分だったら震え上がるような状況ですが、そのファンタジーさがむしろ映像には向いているように思いました。撮っていて楽しかったです」
女性脚本家と組んで、女性漫画家の描く超人気コミックを映画化するという今作は、『天然コケッコー』(07年)を連想させる。
「『天然コケッコー』の時は、脚本の渡辺あやさんに自分の世界を広げてもらい、今作では野木亜紀子さんに、自分の感覚だけではなかったものをうまく引き出してもらえた。そういう意味でも、2作は似ているかもしれないですね」
“変声期で合唱部部長の中3のソプラニスト”を探すも…
難しかったのは歌のシーン。
「漫画だと音は聞こえませんが、映画ではヤクザ・成田狂児の十八番であるX JAPANの『紅』にも、合唱部の部長を務める岡聡実の歌声にも、説得力が必要になります。とくに、クライマックスで聡実が歌う『紅』には、未完成ながら心を震わせる魂の叫びを感じさせなければいけない。これを表現できる変声期で合唱部部長の中3のソプラニストを求めてオーディションもしましたが、そんな人がいるわけない(笑)。ですから、原作の聡実くんにピッタリ合う子ではなく、歌と芝居を通して聡実くんの持つ不安定さや未完成さを表現できる齋藤潤くんを選びました」