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演技指導は邪魔になる

 現場では監督が細かく決めずに、俳優と一緒に相談しながらシーンを決めていったという。

「聡実くんはストーリーのなかで次第に狂児へ興味を持ちはじめるんだと思います。でも本人にはその自覚がないから、そこに関する演技指導はかえって邪魔になる。それに僕はもともと褒めるのが得意じゃないので、齋藤くんは不安だったと思います。山梨でのロケの時、『監督、僕このままでいいんでしょうか』って聞きにきたけど、僕は酔っ払った状態で『大丈夫だよ』って答えました。余計不安になったと思いますけど、最後までがんばってくれました」

「画的にまったく面白みのないカラオケボックスのシーンで、主人公ふたりのドラマを魅力的に描けたのは成功だった」(山下監督) ©2024『カラオケ行こ!』製作委員会

 狂児の所属するヤクザ・祭林組のメンバーに関しては、「あのメンバーでスピンオフをつくりたい」と山下監督。聡実の合唱部の後輩、和田にも特別な熱を注ぐ。

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「僕はどこかサブキャストに熱が入ってしまうところがあって。今作も野木さんに『和田、目立ちすぎじゃない?』と言われました(笑)」

綾野剛とも相談して決めたこと

 スタッフもキャストも一丸となって「岡聡実」をつくりあげたかったという山下監督。

主人公・岡聡実像は、齋藤潤の演技に委ねてつくりあげていった部分が大きいという ©2024『カラオケ行こ!』製作委員会

「原作のファンだった綾野剛くんとも相談して、『この映画を齋藤潤の映画にする』と決めました。そして映画では、古い町や昔ながらのヤクザ、高いボーイソプラノなど、失われるものへの寂寥や哀悼も野木さんの脚本でしっかり描かれています。オリジナルとの違いも楽しんでいただけたら」

やました のぶひろ 1976年愛知県生まれ。女子高生を主役にした『リンダ リンダ リンダ』(05年)で注目を浴びる。『天然コケッコー』(07年)で第32回報知映画賞の最優秀監督賞を最年少受賞。監督作に『もらとりあむタマ子』(13年)、『ハード・コア』(18年)、『1秒先の彼』(23年)などがある。

INTRODUCTION
『夢中さ、きみに。』(19年、KADOKAWA)で注目を集め、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を受賞するなど、いま最も熱い視線を浴びる漫画家・和山やまの初映画化作品。マンガ大賞2021第3位をはじめ数々のマンガ賞にランクインした、累計発行部数60万部突破の原作を、ギャラクシー賞を受賞した2020年放送のテレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」の山下敦弘と野木亜紀子のタッグがユーモラスで愛おしい作品に仕上げた。

STORY
変声期に差し掛かり、ソプラノの美声が出せなくなったことに悩む合唱部部長の中学3年生・岡聡実(齋藤潤)の前に、突然ヤクザ・成田狂児(綾野剛)が現れ、カラオケに誘われる。嫌々ながらもカラオケ大会まで、狂児の歌唱指導をすることになった聡実。時に衝突し、時に笑い合い、不思議で特別な絆を育んでいくが、奇しくも同日開催となったカラオケ大会と合唱コンクールの本番当日、ある“事件”が発生してしまう…。

STAFF & CAST
監督:山下敦弘/脚本:野木亜紀子/出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城、RED RICE(湘南乃風)、北村一輝/2024年/日本/108分/制作・配給:KADOKAWA/1月12日公開