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箱根駅伝の裏側

みんなに愛された男、駒澤大・花尾恭輔のラストランに感動…箱根駅伝2024「TVに映らなかった名場面」復路編

みんなに愛された男、駒澤大・花尾恭輔のラストランに感動…箱根駅伝2024「TVに映らなかった名場面」復路編

2024/01/05
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【10区】青学大の勝因は「ピーキング」と「あまこま」?

 長く箱根駅伝を観てきましたが、今回初めて日本橋に行くことにしました。大手町で勝敗を楽しむよりも、東京で一番の目抜き通りを選手が走るシーンを体感したかったのです。そこで驚いたのが観客の多さ。選手が見えなくても三重、四重の人垣ができている。

 周りから聞こえてくる会話も大手町のそれとは違い、どこか勝つか負けるではなく、「年に一度、箱根を観る」という神事に参加するようなムードを味わえて本当によかった。「えーっと2位は立教大学で3位は東京農大なんだって」と隣の女性がスマホを観ながら、みんなに説明してたのです、「申し訳ない、それは違う」とプチ箱根駅伝講座を日本橋で開催することになったのもよき思い出です。

 全体を総括しますと、今大会のキーワードは「ピーキング」にあったと思います。さまざまな大学からレース後に主力選手に故障やインフルエンザなどの感染があって、ベストな布陣を揃えることができなかったというコメントがでました。

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 箱根駅伝の監督にはそれぞれ得意分野があるように思います。チームマネジメントであったり、記録を出すことに長けていたり、科学的なアプローチが得意だったり、それぞれの監督が得意なコンセプトに共感し選手が集まってくる。今回3位となった城西大学は櫛部監督の科学的なアプローチが結果に結びついてきたといえるでしょう。たぶん、なのですが青学大・原晋監督の一番得意なことは「ピーキングの見極め」にあるように感じます。

10区_2年ぶり7度目の総合優勝を果たし、胴上げされる青学大の宇田川瞬矢 ©️時事通信社

 まだ、青学がさほど強くなかったころ、当時の主務が「うちの監督が箱根駅伝への指導を通じて気づいたことがあるんです。強豪校の学生ほどスタートラインに立ったときに疲れていると。つまり強豪校ほど部内競争が激しくて練習や選考レースで力を使い果たしてしまい、本番で力が発揮できていないように思うと。だから本番で力が発揮できるようピーキングすることにフォーカスしたんですよ」と話してくれたことがありました。

 監督として年次を積み重ねていくにつれ、サンプルとなる学生たちのデータも増えていき、ピーキングの精度がどんどん高まっていった。原メソッドといわれる箱根駅伝に強い青山学院大の肝はここにあるように思います。

 しかし勝利を積み重ねていくにつれ、原メソッド、つまり「練習の達成率」である程度の力がわかるようになってきた反面、頭打ちになりつつあった。ところが今回は12月頭にインフルエンザが蔓延し、練習をすることができない状況に陥った。原監督は大会前、シード落ちも覚悟していたようですが、これで身体を休まざるを得なかったことが怪我の功名となり、結果的に監督の予想を上回るピーキングにつながった。

 今回の青学のデータを精査することで、青学は新たな原メソッドに突入する可能性がある。そうすると今回はなし得なかった10時間40分を切ることも近い将来実現するはず。これは日本の駅伝だけでなく、マラソンにもつながる大きな発見となりそうです。

 つまり「休み」を効果的に使うことで記録が向上するわけだから、これまでの日本のマラソン界にあった「練習をしすぎること」からの脱却にもつながる。青山学院の学生は別大マラソンや東京マラソンなどに在学中から積極的に参加するだけに、駅伝だけでなく、マラソンにおいても検証が進む可能性が多いにありえる。今回は不測の事態でしたが、これを検証して、データ化をして、標準化したら、青学大はこれからもっとすごいことになると思っています。

 最後に余談ですが、僕たちは毎年『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド!』、通称「あまこま」という本を出しているのですが、今回の復路では多くの人がXで「監督の控え室にあまこまが!」「原監督が運営管理車にあまこまを持ち込んだ!」とポストしてくれました。

 創価大出身の濱野将基さんも「横浜駅で応援しているんだけど、今青学通過した時に原監督が車内であまこまのコース図読んでた笑」と報告してくれました。今年のあまこまは、東洋大の酒井俊幸監督のリクエストで、車線数や風向き、気温などを入れています。そして駒澤大・大八木弘明総監督もあまこまを持った写真をSNSにアップしてくれました。つまり今大会の総合1位、2位、4位の監督があまこまを読んでくれていたということです。あまこまが箱根駅伝の赤本的存在になってきた記念すべき年にもなりました(笑)。

構成/林田順子(モオ)

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