下馬評を覆し、青山学院大が2年ぶり7度目の総合優勝を果たした第100回箱根駅伝。4年ぶりに声出し応援が解禁され、沿道には約98万人の観衆が詰めかけた。
コロナ期間中は、箱根駅伝中継でおなじみの文化放送を拠点に観戦していた駅伝マニア集団「EKIDEN NEWS」(@EKIDEN_News)の西本武司さんも、4年ぶりに沿道へと足を運んだ。
「最近はメディアとして五輪や世界陸上に取材に行ったり、『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド』(ぴあ刊)という本を毎年作ったりもしていますが、僕の原点はただの駅伝ファン。だから今回は原点に立ち返って、いちファンとして沿道をブラブラしながら箱根駅伝を見ようと思って。スマホでTVerを見ながらレース状況をチェックしつつ、観戦を楽しみました」という西本さんが、毎年恒例、テレビには映らなかった”細かすぎる名場面“を振り返る。
まずは「往路篇」をどうぞ!(「復路編」もお楽しみください)。
【1区】駒澤大・篠原選手が見せたファイティングポーズ
久しぶりの箱根駅伝沿道観戦。往路で味わっておきたいのは、やっぱりスタート地点の大手町。大手町には始発前から多くのファンが場所取りを始めます。例年、スタート付近は地下鉄が到着するたびに増え続けていく観客で身動きが取れないほどの大混雑でおなじみだったのですが、アフターコロナの大手町の景色は変わってました。
人を滞留させないために、読売新聞本社周辺は観戦エリアと通行エリアの導線が分けられ、セコム警備員たちによる完璧な案内も。近隣ビルへの配慮を徹底的に考えた細やかなアップデートがなされていました。細やかなアップデート。これこそが、箱根駅伝が100回も継続できた所以。
例えばスタート地点横の読売新聞東京本社前には、当日の区間エントリー変更を知らせる模造紙を貼るための大理石の黒い壁がそびえ立っているのですが(そのために作った壁だと僕は信じています)、今回は使われておらず、模造紙を貼った看板をスタッフが持って知らせるスタイルに変わっていました。
ちなみに復路のスタート地点・芦ノ湖はどうなっているんだろうと思って見に行ったのですが、こちらは今まで通り区間エントリー変更を貼るためのベニヤ板が設置されていました。大手町に比べると、早朝の芦ノ湖に集まる人は少ないからでしょう。
もうひとつ変化した大手町名物が、読売新聞東京本社の裏側に連なって止まっていた運営管理車。以前は車に乗り込む各大学の監督に、ニューイヤー駅伝を終えた実業団の監督が新年の挨拶をしていたり、監督にお年玉(笑)や差し入れの食料を渡す観客がいたりで賑わっていたのですが、こちらもアップデート。スタートの号砲とともに、監督を乗せた車がどこからともなく現れ、選手を追いかけて行くスタイル。監督には簡単に接触できなくなりました。
もうひとつ変わったのは沿道の景色。コロナ以前は読売新聞とスポーツ報知の小旗が配られていたのですが、アフターコロナは「小旗は振らない」という観戦スタイルが浸透。選手への声援が直接届くようになりました。沿道も立ち止まっていいところ、人を流すところときれいに分けられていて、とにかく人流が滞らないようになっていた。これは1区だけではなく、他の区間も同様で、全10区間217.1kmにわたる完璧なオーガナイズに感動すら覚えました。
大手町のスタートを観たかったもうひとつの理由
さて、僕には大手町のスタートを観る理由がもうひとつありました。駒澤大のエントリーと今シーズンの戦力を検討すると1区の選手を当日変更するだろう、走るのは篠原倖太朗選手に違いないと睨んでいたからです。
駒澤大は昨年の箱根4区以来、21区間にわたり他大学の後ろにつくレースをしてこなかった。今シーズンは序盤から首位を独走するというスタイルで勝ち続けてきたのです。箱根も最初から独走を狙っているだろう、各校のエースが集まる1区で競り合いとなったとしても、トップもしくは秒差でつなげる選手、そう考えると1区は、ハーフマラソン日本人学生最高記録(1時間11秒)をもつ篠原選手しかいないと思っていたわけです。
篠原選手は強いだけではなく、ユニークなキャラクターで、アニメの「NARUTO」が大好き。カメラを向けると登場人物のロック・リーを真似た「シノックリーポーズ」をとるのが、駅伝ファンにはおなじみ。
駅伝ファンから愛される彼ですが、駅伝や記録会ではいくら良い走りをしても、他の選手がそれ以上の結果を出したりと、他の選手に主役の座を持っていかれることが多かった。どちらかというと「人気も実力はあるのになぜか主役になれないキャラ」だったのです。
だから今回こそは「1区のスターになる」と意気込んでいるはずだと思い、1区に足を運んだわけです。
大手町にいけば、区間変更の発表より前から1区を走る走者はアップをはじめますから、主催者発表の前から1区走者を知ることができるんです。箱根駅伝遺産としてファンからも認定されている通称「寺田交差点」で選手のアップを見ていると、白地に紫の文字が入ったブレイカーを着た篠原選手の姿が。
「篠原だ!」と興奮している僕を見つけた篠原選手が会釈をしながら近づいてきました。そこで「シノックリーポーズやる?」と聞いたところ「いや、今日はこれで」とファイティングポーズ。
箱根駅伝1区は18km地点の六郷橋まで力を温存して、そこからスパート合戦が始まるというのがセオリーですが、篠原選手のファイティングポーズは「序盤から僕は行きますよ」というメッセージ。結果、篠原選手はアグレッシブな走りで区間賞を獲得。ここまでは思った通りの展開で、「ようやくヒーローになれたね!」と全能感に包まれていたのですが、そうは問屋がおろさない。そこが箱根のおもしろいところです。