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箱根駅伝の裏側

青学大・太田蒼生はなぜ、駒澤大・佐藤圭汰との勝負に勝てたのか…箱根駅伝2024「TVに映らなかった名場面」往路編

青学大・太田蒼生はなぜ、駒澤大・佐藤圭汰との勝負に勝てたのか…箱根駅伝2024「TVに映らなかった名場面」往路編

2024/01/05
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【2区】青学大・黒田選手の最速シューズに目が釘付け

 1区からはやくも独走状態に入った駒澤大の今季のテーマは「去年の自分たちを超える」こと。2年連続学生駅伝三冠をかかげるのではなく、史上最強と呼ばれた昨年のチームを超えた先に三冠がある。そのように考えた。昨年までエース区間の2区を走っていたのは、大学生でありながらブダペスト世界陸上の日本代表にもなった田澤廉選手(トヨタ自動車)。つまり2区を走る鈴木芽吹選手にとっては「田澤超え」がテーマでした。

 ところが駒澤大との差を詰めて9位から一気に2位にジャンプアップしてきたのが青学大の黒田朝日選手です。そしてその足元に僕は目が釘付けになりました。

 というのも、黒田選手が履いていたのはアディダス史上最軽量の「アディゼロ アディオス プロ エヴォ1」だったからです。

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2023年9月のベルリンマラソンで、ティギスト・アセファ選手が履き、2時間11分53秒というとてつもない女子マラソンの世界記録(従来記録を2分以上更新)を叩き出したスーパーシューズ。日本では抽選販売のみで一般販売はされておらず、お値段はなんと8万2500円!(メルカリでは22万の高値がついた)なのに耐久性はフルマラソン1~2回分。これまで日本人で履くことを許されていたのは、10000mとハーフマラソン日本記録を持つ新谷仁美選手ぐらい。1月1日に行われたニューイヤー駅伝でも履いてる選手はゼロ。そんな貴重なシューズを黒田選手が履いたわけです。

 青山学院大はアディダスがユニフォームを提供する「アディダススクール」。そのため長らく選手たちはアディダスのシューズを履いていました。ところがナイキの厚底シューズが陸上界を席巻したことで青学大もナイキを解禁、一気にタイムが上がり、第二黄金期を築きました。

 それゆえ一時はアディダススクールであるのに試合ではアディダスを履いている選手がほとんどいないというメーカー泣かせな状況でしたが、そのなかで黒田選手は一途にアディダスを履いていた。さらに試合ではアディダスのマークがついたヘアバンドをつけるなど、生粋の「アディダスっ子」だったのです。

2区、アディダスのヘアバンドがトレードマークの青山学院大・黒田朝日 ©EKIDEN NEWS

 その貢献度、そして次世代スターとしての資質をメーカーは評価したのでしょう。誰もが履けるわけではないシューズを履いているということが、彼の価値の高さを物語っています。黒田選手は2年生。あと2回箱根を走るチャンスがありますから、これからどのような成長を遂げるのかが楽しみです。

2区のもうひとつのポイントは「大八木総監督を探せ」

 2区のもうひとつのポイント、それは「大八木総監督を探せ」です。前大会を最後に大八木弘明さんは駒澤大監督の座を退き、駅伝は藤田敦史新監督に引き継ぎました。運営管理車から選手に送られる大八木総監督の檄も箱根駅伝の楽しみのひとつでしたが、それも藤田監督にバトンタッチ。しかし、「沿道で声援を送りますよ」とかねてより公言していただけに、大八木総監督がどこに現れるのか?というのは勝敗に関係なく、駅伝ファンにとってのもうひとつのお楽しみだったのです。

 そんな駅伝ファンの要望に応えてくれたのが、日本テレビとスポーツ報知。なんと大八木総監督に密着取材したのです。スタート直前、読売新聞本社から、日本テレビのディレクターとスポーツ報知の記者を従えてダッシュで移動する大八木総監督を発見。

かつてスポーツ報知の駒澤番を担当するも、誌面デザイン部署へと移動となって、箱根駅伝最前線から外れていた太田涼記者(元順天堂大駅伝部主務)が2日限りの現場復帰。大八木総監督の動きを日本テレビとスポーツ報知が伝え続けるという画期的な試みが実現。日本テレビは大八木総監督の檄をわざわざ「リプレイ」で中継に挟み込み、スポーツ報知は「首相動静」のように1時間ごとの大八木総監督の動きを伝え続けました。

「▼4時45分 ひげをそる」「▼8時号砲とともに愛用のストップウォッチ2つをスタートさせる」って尋常じゃない(笑)。でも、この遊び心すきです。太田記者グッジョブ。