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“史上最高の2区”を生んだ近藤幸太郎と吉居大和…箱根駅伝2023「細かすぎる名場面」往路編

“史上最高の2区”を生んだ近藤幸太郎と吉居大和…箱根駅伝2023「細かすぎる名場面」往路編

2023/01/04
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 駒澤大学の大学駅伝三冠で幕を閉じた第99回箱根駅伝。

 コロナ禍で長らく自粛を呼びかけられていた沿道での応援も復活するなか、今年も駅伝マニア集団「EKIDEN News」(@EKIDEN_News)の西本武司さんとポールさんは、箱根駅伝中継でおなじみの文化放送を拠点に、ラジオとテレビとツイッターを駆使しながら観戦。

「コロナ前までは現地で写真を撮っていたので、今年はどこで見るんですか?とたくさん聞かれたのですが、コロナ禍の数年で箱根駅伝はラジオを聴きつつツイッターをやりながら、テレビでじっくり見るに限ると気づきました。昨年と同じく、Zoomで繋がった11大学の大学新聞の記者たちとも箱根駅伝を楽しませていただきました」と話す2人が、今年も“細かすぎる名場面”を振り返る(「復路編」もお楽しみください)。

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【1区】関東学連・新田選手の“大逃げ”はなぜ生まれたのか?

西本 まず今回の箱根駅伝は駒澤大学が三冠を果たすかどうかが焦点の大会でした。そのため各大学は駒澤をどう攻略するかの戦略を練る必要がありました。近年は「4区が準エース区間」「繋ぎの区間はない」などと言われ、各校のエースが各区間に分散する傾向にありましたが、今年は駒澤の三冠を阻止すべく、2区にエースが集結しました。

ポール 「花の2区」にふさわしいメンバーでしたよね。駅伝マニアたちの間では朝7時の区間エントリー変更発表が一番盛り上がりました。中央大の吉居大和選手、順天堂の三浦龍司選手、國學院の平林清澄選手らが続々と2区に来ましたからね。

西本 一方で1区の選手たちは、エースを生かすために、良い位置でタスキを渡すことが求められる。監督から「先頭と秒差でタスキを渡せばOK」のような指示が伝えられたはずです。1区がスローペースになった理由がここにあります。

ポール そんななか飛び出したのが、関東学生連合チームで育英大学4年の新田颯選手でした。

1区で飛び出した関東学連の新田(育英大)©️時事通信社

西本 関東学生連合チームというのは、箱根駅伝予選会を通過できなかった大学から1名ずつ、タイムの上位10名が選ばれて編成されたチームです。通常の大学であれば、山登りや山下りの適性などを見極めて区間配置を行いますが、単純にタイムだけで選ばれた選手なのでそれもできないし、毎年なかなか上位に食い込むことができない。さらにオープン参加なので、記録もつかないわけです。

ポール 関東学連が各大学を食ってやろうというドラマを描いた池井戸潤さんの小説「俺たちの箱根駅伝」が週刊文春で連載中ですよね。

西本 ではなぜ飛び出した新田を他校は追わなかったのか。最初は「どうするどうする?」となったと思うんですけど、周りの様子を見て「関東学連は順位もタイムもつかないから無理に追う必要はない」という考えに落ち着いたんでしょうね。ちょっと日本人的というか。

ポール 飛び出したのが他校だったら、展開は違うものになっていたでしょうね。

西本 もうひとつ、選手が監督の指示を聞けなかったというのもあります。1区は監督が乗った運営管理車が選手と合流するのが、終盤の六郷橋を渡ってからなんです。監督の思いとは違う動きをして、自分がレースを壊すわけにいかないという不安でみんなが様子見するなか、それを逆手にとって勇気を持って飛び出した新田選手。かつてない光景を見せてくれました。

 この展開で大きな広告効果を得たのが、群馬にある新興校の育英大学です。新田選手が大学名をアピールしたかったかどうかはわかりませんが、これを見て「この手があるのか」と考える大学が現れる可能性もある。つまり注目度が高まる来年の100回大会でなんとか1人でも滑り込ませて、最初から突っ込ませて目立たせるという大学が出てきてもおかしくないわけです。そうなったときに、学生連合の記録を認めるのか認めないのか…。大きな問題提起を置き土産に、新田選手は箱根駅伝を去っていったのです。