青山学院大が大会新記録で総合優勝を飾った第100回箱根駅伝。コロナ禍を経て、4年ぶりに沿道応援へと繰り出した駅伝マニア集団「EKIDEN NEWS」(@EKIDEN_News)の西本武司さんが、往路に引き続き、テレビでは伝わらない復路の私的名シーンを振り返る。
【6区】東洋大のピンチを救うべくあのメダリストが箱根に!
これまで数々の名選手を輩出してきた東洋大ですが、2023年シーズンは出雲駅伝8位、全日本大学駅伝では14位でシード権を逃し、大ピンチと言われていました。そこで立ち上がったのが東洋大OBです。スタート前の大手町では過去に6区山下りで「人間じゃねえ」という名言を残した今西駿介選手(今季、惜しまれながら現役を引退)が音頭を取り、先輩・後輩関係なく人を集め、世代を超えて東洋大の選手を応援するというムードが出来上がっていました。
そして復路スタート1時間前の朝7時。僕は箱根山中の大平台へ。ヘアピンカーブが見渡せるベストポジションを確保したと思ったら隣でおにぎりを食べていた青年が大声で「おはようございます!」と。駅伝や陸上の現場にいって知らない人から声をかけられることはよくあることなので「ああ、どうもおはようございます」と気のない返事をして顔をよくみると、東洋大OBで世界陸上の35km競歩で連続メダル獲得という快挙を成し遂げた川野将虎選手の姿が!
なんと選手たちにタイム差を伝えるために、おにぎりを頬張りながら、一人でスタンバっていたのです。
メダリストを、箱根山中に投入するとは、東洋大の箱根に懸ける想いに驚きました。ちなみに川野選手は、練習の一環として何度か5区のコースを歩いたことがあるそうです。もちろん競歩で(笑)。彼はパリ五輪の日本代表が決まる2月18日の神戸競歩に出場する予定なので、ぜひこちらもチェックしてほしいですね。箱根山中ではオリンピアンのオーラを消してましたが、神戸ではバリバリのオーラを放つはずですから。
城西大・久保出選手のストーリーが観衆にどんどん伝わっていく
テレビで話題となった選手といえば、城西大の久保出雄太選手でしょう。一般入試で入学し、当初は陸上の同好会に在籍していましたが、その走力を買われ、男子駅伝部に入部。そして箱根駅伝出場にまでたどり着いた彼のストーリーがレース中紹介されたことではじめて知った方も多かったことでしょう。
スタートから芦之湯までの登りの区間できつそうな顔で走ってる彼が、下りになると一気に息をふきかえし、どんどんペースをあげていく。スタート前に彼を知っていた人は、よほど熱心な陸上ファンでしょう。無名の存在だった久保出選手がレースがすすむにつれ知名度がどんどんあがっていく。沿道で待っている観客にもTVerやラジオで彼の情報がどんどん周りに伝わっていき、彼が現れる頃には「あの選手が来た!」と大歓声。スタートからたった40分で、みんなが彼の物語を知っている。山を降りていくほどに、彼のことを知っている人が増え、さらなる歓声が彼を迎えるのだろうと感慨深いものがありました。これが箱根、これが令和の観戦スタイルなんだと感じました。