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連載文春図書館 究極の徹夜本!

圧巻の展開 夏樹静子「77便」は短篇ミステリー史に残る傑作だ

『77便に何が起きたか』(夏樹静子 著)――究極の徹夜本!

2018/03/31
『77便に何が起きたか』(夏樹静子 著)

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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『蒸発――ある愛の終わり』『Wの悲劇』などの長篇ミステリーを残し、闘病記『腰痛放浪記――椅子がこわい』で話題を呼んだ夏樹静子は、稀代の短篇の名手でもあった。最近、著者の短篇傑作選として、『雨に消えて』(光文社文庫)と『77便に何が起きたか』が立て続けに刊行されたけれども、ここでは、トラベルミステリーで揃えた後者を紹介する。

 収録作には、時刻表を使ったアリバイ・トリックも出てくる。時刻表などというものは改正されてしまえばそれまでだし、今読んでも古めかしい印象を受けるだけなのでは……と考えたら大間違い。そもそも、トラベルミステリーのフォーマットが成立する以前の作品群なので、その枠に収まりきらない発想で書かれたものが多いのである。

 もしダイヤが乱れたら、列車を使ったアリバイ・トリックは崩れてしまうのでは……という突っ込みを、作家側から先取りしたような作品が「特急夕月」。列車内である人物を殺そうとしている男が、突然のダイヤの乱れに遭遇し、殺人を決行すべきかどうか思い悩む……というブラックユーモア溢れる物語だ。「山陽新幹線殺人事件」の皮肉なオチも可笑しい。「ローマ急行(エクスプレス)殺人事件」はクリスティーのパロディであると同時に、安楽椅子探偵の推理の限界を考察した異色作だ。

 しかし、何といっても圧巻なのは表題作。五十一人のうち数人には奇妙な共通点が……。あまりにも不可解な謎に対し、結末で提示される真相はシンプルながらクレイジーそのもの。五十人以上の人命の重さと、作中人物の企てのアンバランスさに背筋が凍る。短篇ミステリー史に残る傑作だ。(百)