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本格ミステリ大賞受賞の喜国雅彦が指南 岡田将生主演『ゴールド・ボーイ』の鑑賞前後に「してはいけないこと」

2024/03/09

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画

note

 ミステリ系、サスペンス系の作品なので、ああだこうだと言いたくない。ここを読んでいる方は、何も知らずに映画と出会って欲しい。なので、僕の感想も次の一行で終わりだ。

『ゴールド・ボーイ』面白かった!

 では許されないんだよね。大人の世界は。原稿料をもらってる立場としては、ここの紙幅は埋めないと怒られる。ということで、鑑賞前にしてはいけないことを書いてお茶を濁すことにする。

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殺人犯・東昇を演じた岡田将生 ©2024 GOLD BOY

「夏なのに気温が低い映画」

 まず、ページ末の映画解説。これは読まなくていい(笑)。ストーリーが数行で紹介されているが、もちろんただの導入部なので安心していい。ミステリマニアの僕をしても「ほほう」となる展開が待っている。原作は中国人によって書かれた小説らしいのだが、もしこれが日本人で、ましてや有名な作家であるならば、手筋や展開が判ってしまったり、先読みに忙しくて、映画鑑賞の邪魔になったりすることもあるが、他国の未体験の作家なので、いい意味で受け身になるしかないのである。波に揺られる小舟の客人。そんな気分を味わおう。

 監督名も知らなくていい。最初の数カットで「おや、匠だぞ。しかも知ってる人だ」と気づかせてくれる。手がかりは「画面の温度」だ。夏の沖縄のはずなのに(画面には海と太陽が映っているのに)その温度はなぜか低く、これが実に気持ち良くて、ひょっとしたらと予想がついたのだ。森田芳光監督の『ときめきに死す』(84年)、北野武監督の『ソナチネ』(93年)、金子修介監督の『1999年の夏休み』(88年)、いずれも僕の好きな「夏なのに気温が低い映画」である。ご参考までに。

©2024 GOLD BOY