――まず、監督のオファーを受けた際の気持ちはいかがでした?
福士 最初に考えたのは「現場で俳優さんに自分の考えを正しく伝えられるのかな」という心配でした。悩んだ末、普段通りの自分として振る舞うことに覚悟を決めたのですが。
小澤 堂々と振る舞ってたと思いましたよ。
実家での会話で一気の膨らんだイメージ
福士 そうできてたらよかったです(笑)。題材を何にするかも迷ったんです。決められたフォーマットであれば何を撮っても良いということだったのですが、なかなか決め手がなくて。実家に戻ったとき、母や姉と話している中でヤングケアラーの話題が出て、それでイメージが膨らんだんですよね。脚本の初稿はその夜に一気に書きあげました。ヤングケアラーで絵を描く一葵(いつき)、「立ちんぼ」をする三羽(みわ)の淡い恋を描く中で、大人の登場人物が大事になると思ったんです。
小澤 そこで僕にお声がけいただいた(笑)。
福士 一葵の職場の上司・五十嵐は本編の“重石”なので、小澤さんに出ていただけて、本当に嬉しかったです。
初対面の第一声は「君の事が嫌いだよ」
小澤 僕と福士くんが初めて出会ったのは、プライベートで偶然、飲み屋さんだったんだよね。開口一番、僕は「君の事が嫌いだよ」なんて乱暴な口を利いたりして(笑)。それは大好きの裏返しの挨拶だったんだけど。
福士 そうでしたね(笑)。その時ひと目見て「この人が五十嵐だ!」と直感したんです。後日、正式にオファーをさせていただいて。実際、小澤さんが演じて下さったおかげで、包容力とユーモアが人物に備わったと思います。短編なので、キャラクターの膨らみは、主演の清水尋也さんや芋生悠さんはもちろん、小澤さんや木村了さん、伊澤彩織さん自身の存在感に頼ったところが大きくならざるをえなかったんです。現場に小澤さんが座っているだけで画力が違うと感動しました。
小澤 そう?(笑) 現場の福士監督を見ていて思ったのは、カットをかけるのを待つ演出だということでしたね。なかなか「カット」と言わない。