1月中旬から、SNSのBL好き界隈が大いにざわついている。
「思った以上にBLだった」「BLにしか見えない」「原作の薄いBL感が好きだったけど、映画はさらにBL感が増していて素晴らしい」「新感覚BLコメディ」等々……これらは、『夢中さ、きみに。』や『女の園の星』などで知られる和山やまの同名漫画を実写映画化した『カラオケ行こ!』(1月12日より公開)の感想だ。
映画は野木亜紀子脚本×山下敦弘監督。ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(2020年/テレビ東京)で抜群の相性の良さを見せた二人である。
とはいえ、和山やまのシュールな低体温の笑いは独特で、過去に実写化されたドラマ『夢中さ、きみに。』(2021年/毎日放送)も作品単体としては良作だったものの、和山やまの笑いとは質感が異なると個人的には感じていた。それだけに、佐々木倫子と並んで実写化の難しい作者だと思っていたのだが、口コミを見る限り、本作の原作ファンからの評判はすこぶる良い。
さらに、映画を観て驚いた。異なるテンポの音楽を掛け合わせたようなズレのあるおかしさや、淡々とした低い温度の笑い、空気感が、あまりに忠実だったこと。原作の重要なポイントは余すところなく掬いあげ、なおかつオリジナル要素がふんだんに盛り込まれているのに、脳内ではそれらがちゃんと原作者の絵で再現されてしまうこと。そして、ちょっと切ない青春映画でありながらも、あまりにBLだったためだ。
以下、ネタバレを含むため、原作未読、映画未視聴の方はご注意を。
中学生のお相手が成人男性、それもヤクザ
合唱コンクールの強豪校・森丘中学校合唱部部長の岡聡実(齋藤潤)は、ある雨の日、ヤクザの成田狂児(綾野剛)から突然カラオケに誘われる。狂児は組主催のカラオケ大会で最下位になった者が課される罰ゲームを回避するため、歌が上手くなりたいと言い、合唱コンで見初めた強豪校の部長・聡実に指導を頼み込むのだ。
この依頼に戸惑う聡実だが、第二次性徴の変声期を迎え、合唱から一時逃げだすように、不本意ながら狂児に歌のレッスンにつき合うことに。そして、二人はそれぞれの「勝負の日」――聡実にとっては部活引退前の最後の合唱祭と、狂児にとっては最悪の罰ゲームを賭けた組のカラオケ大会――に向けてレッスンを重ねる中、二人の間に奇妙な友情が芽生えていく……。
原作は、「ブロマンス」だと思って読んでいたが、見る人が見たら確かにBL風味ではあるだろう。
これを実写映画化する際に気になるのが、そもそも主人公の中学生のお相手が成人男性、それもヤクザという設定が、限りなくアウトであること。第一、二人の交流の出発点である、見ず知らずの成人男性に誘われて二人でカラオケボックスに行くという行為自体に相当な怖さがあること。
また、実写化では生身の人間が演じることにより、生っぽさや立体感が増幅され、BL風味は薄まることも多い。しかし、面白いことに、アウトな設定は序盤で気にならなくなり、BL風味の方は原作より濃厚になっていた。
その理由の一つは、聡実と狂児の距離感だ。