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中学生とヤクザが二人きりでカラオケに…実写映画『カラオケ行こ!』が“アウト”にならなかったワケ「BL風味は原作より濃厚」

中学生とヤクザが二人きりでカラオケに…実写映画『カラオケ行こ!』が“アウト”にならなかったワケ「BL風味は原作より濃厚」

2024/02/04
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 さらに、聡実が狂児に対して、突然猛烈にブチ切れるシーンがあるが、このきっかけは、映画オリジナルとなっている。聡実が部活をサボるようになり、部長の代理を務めてくれる女子部員と、後輩男子との間でモメていると、それを目撃した狂児が冷やかしたことで、聡実は顔を真っ赤にして乱暴な言葉で激しく罵るのだ。

 おそらく聡実の中では、自分に最も近い場所にいたはずの狂児が、ふいに自分との間に線を引き、世界の外側から茶化して来たような寂しさと疎外感、戸惑いと怒りが一気に湧いてきたのだろう。そこから二人は会わないまま「勝負の日」を迎えるのだが……。

『リンダリンダリンダ』みたい? 監督らしい「青春」感

 さらに、映画は原作よりBL風味が強いにもかかわらず、「青春モノ」に見えるのも不思議な点だ。実際、SNSには山下監督の過去作『リンダリンダリンダ』(2005年)と重ね合わせて観た人たちの以下のようなつぶやきも見られる。

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「『カラオケ行こ!』、リンダリンダリンダみたいだなと思ったら、監督が同じだった」

「『カラオケ行こ!』見て、『リンダリンダリンダ』をなぜか久しぶりに見たくなったけど、山下敦弘監督だったのか」

『リンダリンダリンダ』公式サイトより

 年齢も違えば住む世界も全く違う二人が、「歌とカラオケ」でつながり、勝負の日までの有限の時間を共に過ごす物語は、確かに「文化祭」のような非日常感と高揚感、終わってしまう切なさがある。さらに、「変声期」という、不安定で鬱屈した刹那だけの邂逅は、儚いからこそ美しい。そして、それらが本来アウトの設定も、フィクションとして危なげなく楽しめる理由だろう。

 原作の笑いや空気感を最大限にリスペクトしつつ、青春のニオイを漂わせ、濃度の高いBL風味も盛り込みつつも、様々な要素を違和感なくまとめあげた『カラオケ行こ!』。何度も繰り返し観ている人が多いのも納得の、深い愛と高難度の技術が詰め込まれた作品ではないだろうか。

中学生とヤクザが二人きりでカラオケに…実写映画『カラオケ行こ!』が“アウト”にならなかったワケ「BL風味は原作より濃厚」

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