アニメ化をきっかけに『メダリスト』(講談社)に大きな注目が集まっている。

 本作は、つるまいかだが月刊アフタヌーンで連載しているフィギュアスケート漫画だ。

主人公の結束いのり(右)とコーチの明浦路司 公式サイトより

 主人公は小学5年生の少女・結束いのり。不器用で勉強が苦手ないのりは母親から「何もできない子」だと思われていた。だが彼女は、フィギュアスケートの選手だった姉に憧れ、母親には内緒にして4年間独学でスケートの練習に励んでいた。

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 そんないのりが、元アイスダンス選手で現在は「ルクス東山FSC」でアシスタントコーチとして働く明浦路司と出会い、フィギュアスケートの選手としての才能を開花させていく姿が描かれる。

 本作の画はとても華やかで、いのりたちフィギュアスケート選手もかわいらしく描かれている。一方、劇中で描かれるアイススケートの世界はとてもシビアだ。

 第1話は、コーチの司が選手から引退する場面から始まり、それから2年経ってもアイスショーの仕事にありつけていない姿が描かれる。日本はスケート強豪国で選手のレベルが高い。

 また、いちからスケートを始めようとすると経済的な負担がとても大きく、全日本選手権を目指すのであれば、5歳くらいから準備しないといけない。

「もっと早くスケートを始めていれば」「もっと恵まれた経済環境だったら」

 司がスケートを始めたのは中学生からと遅く、お金がないためクラブに入ることもできず、コーチに教わることができなかった。20歳の時に育ててくれるというコーチと出会い、シングルからアイスダンスの選手に転向し、全日本選手権で4位に入賞したが、司の中には「もっと早くスケートを始めていれば」「もっと恵まれた経済環境だったら」という気持ちが燻っていた。

選手としての挫折を経てコーチになった経歴が 公式PVより

 そんな司がいのりと共にオリンピックの金メダルを目指すことになるのだが、小学5年からスケートを始めた彼女もまた遅いスタートで、そのことに対して強いコンプレックスを持っていた。

 やがていのりには優れた身体能力と本番に強い度胸があることがわかってくるのだが、序盤のいのりの自信の無さは、読んでいてとても痛々しい。

 いのりが自己肯定感の低い原因の1つが、常に先回りして行動することで彼女を萎縮させてきた母親にあることを本作ははっきりと示している。