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「カレー屋は貧困を固定化する装置です」借金まみれで日本にやってくるネパール人労働者が搾取から抜け出せないワケ

『カレー移民の謎』より#1

2024/04/21

genre : ビジネス, 国際

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ネパール人がネパール人を搾取する構図

 こうして同国人の食い物にされているコックもいるのだとRさんは訴える。同じような境遇のコックが安いアパートで同居しているし、勤め先はレストランだから食べるものだけはあって月10万円以下の給料でもなんとか生きてはいけるが、きわめて苦しい。故郷での借金の利息もある。それでも平均月収1万7809ネパールルピー(約1万7100円、国際労働財団による。2019年)の祖国にいるよりは、と耐え忍ぶ。

 そんなコックたちも、いくらか日本の生活に慣れてくると故郷から家族を呼ぶ。妻や子供たちは「家族滞在」の在留資格を取得して日本で暮らすことになる。そしてこの「家族滞在」の場合、週に28時間までの就労が許可される。月にするとだいたい100時間、時給1000円なら10万円を稼ぐことができる。コックの夫の給料と合わせればどうにかやっていけるし、切り詰めれば故郷に送金もできる……こんな家庭が、実は日本にかなり存在する。

ネパール・カトマンズ ©️hoyano/イメージマート

 これまたちなみに「家族滞在」の在留資格を取得するには日本側で家族を呼ぶ本人=つまりこの場合はネパール人コックの経済力も入管で審査される。母国から呼ぶ家族を養えるのかという点が、課税証明書や納税証明書などでチェックされるのだが、これもフェイクなのだとさまざまなコックが教えてくれた。

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 書類上はきちんとした給料を支払っているという体裁になっているのだそうだ。だから入管のチェックもパスして家族を呼べる。しかし実際には、月数万円の給料が手渡しで支払われるだけだったというコックも多い。さらにいえば、雇っているコックの家族滞在ビザ取得にも介在し、お金を取る経営者がいる。

 また社会保険に加入していない店、コックが非常に多いことも問題となっている。厚生年金や国民年金は、老後もこの国に住んでいるかどうかわからないからと加入しない。さすがに国民健康保険は支払っている人が多いが、個々で手続きをしている。いわば個人事業主のような扱いなのだ。中には国民健康保険の存在すら知らず、あるいは知っていても加入しない人もいて、万が一のケガや病気のときに困るというのはよくある話だ。