――ビジネス的な理由があるのはわかりつつも、クリエイター本人がコメントすることもかなり少ないですよね。漫画でも彫刻家・今井が、対処をマネージャーに任せて自分はすまして少年のような顔でい続けることに、読みながら腹が立ちました。
渡辺 アーティストってそういうところがあるなと思うんです。有名なクリエイターが告発された時も思ったのですが、本人の問題なのに妻が表に出てきてフォローしたり、事務所が声明を出したり。「その人の表現やキャラで売ってたのに、加害問題になったら急に消えるじゃん」って。そんな自由自在にパーソナリティって出したり消えたりできるものなのか不思議に思いました。
「アーティストは『繊細で敏感』なことが良いみたいな雰囲気があるし…」
――彫刻家の今井は、14歳の時に自分と性関係を結んだ女性が傷ついたと聞いた時、本気で驚いていますもんね。
渡辺 成功した人はプライドが高くなるし、ネガティブなことを言われることに耐性がなくなっていくんだと思うんですよね。自分が傷ついちゃうというか。そういうナイーブさが、プライドの裏側にはある気がするんです。
――人の痛みにはものすごく鈍感なのに、自分の痛みには過剰反応する。
渡辺 そうなんですよね。アーティストは「繊細で敏感」なことが良いみたいな雰囲気があるし、もちろん悪いことではないと思うんですけど、自分の痛みや自分の感情にだけすごい敏感になっていくというのは気をつけないと陥りがちかなと。表現を仕事にしている者として勿論自分もですが。
――「あれは恋愛だった」という今井の開き直り方は、「あれは合意だった」という芸能界の権力者たちを連想してしまいます。
渡辺 やっぱりここでも「恋愛」が大きな存在感を持ちすぎてると思うんですよね。年をとって大きな仕事もして世の中のルールだって分かっているはずのいい大人なのに、「恋愛だから」「恋しちゃったから」で済むと思ってる人って多いように感じて。 恋というフレーズには大人も思考停止状態にしてしまう力があって、それはやっぱり危ないことだと思います。