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キスシーンは口元にモザイクが…中国出身の漫画家が語る、BLマンガの“規制と実情”

『日本の月はまるく見える』史セツキさんインタビュー

2024/03/30
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 中国では規制のため自由にBLマンガが描けず悶々としていた、マンガ家の卵・夢言(ムゲン)が、日本のマンガ雑誌でBLを思う存分描くために、文化も慣習も違う中国と日本を行き来しながら自分の夢を叶えようと奮闘する姿を描く『日本の月はまるく見える』。2023年春に「モーニング」(講談社)22・23合併号に読み切り版が掲載されると、SNSを中心に話題となり、同年7月13日からマンガ配信サイト「モーニング・ツー」で連載化。2024年2月22日には待望の単行本第1巻が刊行された(読み切り版は第1話として収録)。

 作者の史セツキさんは中国出身。自身の経験にもとづくエピソードが作品に活かされているという。どのような思いで本作を描いているのか、その心境をうかがった。

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「一人っ子政策」を題材にしたマンガでデビュー

「中国人である自分にしか描けないものは何だろう、と思案したときに、中国の社会事情や中国と日本の文化の違いをテーマにしようと考えました。何について描くのか、考えたんですけど、その頃ちょうど中国では(廃止になった)一人っ子政策についての議論が出始めていました。私自身は、じつは一人っ子なんです。ただ、一人っ子としてもさまざまな思いがあります。それに私自身も、二人目以降に生まれた人がどのような生活を送っていたのか、どのような経験をしたのかをもっと知りたいと思うようになり、いろいろ調べてマンガにしました」

 中国出身の史セツキさんにとって、日本でのデビュー作となったのは、読み切り『嘘をつく人』。2021年後期・第80回ちばてつや賞一般部門で奨励賞を受賞し、2022年1月20日に「コミックDAYS」に掲載された。この作品では、いわゆる黒孩子(ヘイハイズ)が題材である。黒孩子とは、中国で「一人っ子政策」が実施された時期(1979年~2016年)に二人目以降として生まれ、戸籍を持てなかった人のことを指す。近年では映画『シスター 夏のわかれ道(原題:我的姐姐)』(2021年製作、日本公開は2022年)のように、黒孩子を扱った作品が増えてきている。

『嘘をつく人』はSNSで反響を呼び、続いて描かれたのが『往復距離』。この作品ではじめて中国のBL事情を題材とし、モーニング&イブニング月例賞2021年12月期で佳作を受賞した。この読み切りをベースに『日本の月はまるく見える』が生まれる。

 黒孩子にBLの表現規制。

 中国の社会事情を題材にしているが、その表現手段としてはノンフィクションやエッセイマンガではなくストーリーマンガを選択した。