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キスシーンは口元にモザイクが…中国出身の漫画家が語る、BLマンガの“規制と実情”

『日本の月はまるく見える』史セツキさんインタビュー

2024/03/30
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BLを知ったきっかけは『カードキャプターさくら』

 幼少時にはじめて読んだマンガは、中国のマンガ家・姚非拉の『80℃』。恋愛マンガだった。ほどなくして日本のマンガにも接する。はじめて好きになった日本のマンガは『カードキャプターさくら』(CLAMP)だった。

「CLAMP先生の絵は、小さい頃から真似して描いてました。キャラクターの感情を表現するときの表情の作り方とか、じっくりコマを使って感情を表すというようなことは、すごく影響されたと思います。

 BLというものがあると知ったのも、『カードキャプターさくら』を通じてでした。さくらちゃんのお兄ちゃんとその友達が恋人ということが作中では明確には描かれていないんですけど、そういう見方をする人たちがいることを知りました。そういうのも素敵だな、と。中学生のときには、マンガではなくBL小説を書いたこともあるんですよ(笑)。それは『D.Gray-man』(星野桂)のキャラクターを使った二次創作でした。好きなキャラクターの恋のシーンが見たかったから書き始めたんです」

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一度でもマンガを描けて、コミケに参加できたなら…

『日本の月はまるく見える』より

 中国で大学を卒業したあと、日本の大学院に進学するために来日した。専攻はグラフィックデザイン。マンガ家になろうとは思っていなかった。だが、イラストを描いているうちに、やはりストーリーがあるものを描きたくなる。

「最初のうちは何を描いたらいいのかわからなくて、好きな作品の同人からはじめました。コミックマーケットには一般参加もサークル参加もしましたよ。中国にいるときに日本のアニメを観て、コミケの存在自体は知っていました。その作品のタイトルは失念してしまいましたが、周囲は賑わっているのに主人公のサークルに来る人がほとんどいなかったのが印象に残っています。その主人公よりは、人が来てくれましたね(笑)。

 正直、このときはマンガ家になるのはあきらめていたんです。自分がマンガ家になれるわけがないと思っていましたから。でも、コミケだけは一回は参加してみたかったんです。一度でもマンガを描けて、コミケに参加できたなら、もうそれだけで私の人生は円満だな、と思っていました」