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「ぜひ食べてみたいと思っていた」日本の食べ物

 来日前の史セツキさんには、日本に対するあこがれの象徴として、ある食べ物の存在があった。それは焼きそばパンだ。「ぜひ食べてみたいと思っていた」という。『日本の月はまるく見える』の主人公・夢言が劇中であこがれているBL作家の著作は『あの日ときみと焼きそばパン』。ここにも「焼きそばパン」の名が冠されている。

「日本のマンガやアニメでは、中学校や高校で昼休みになると、焼きそばパンがすぐに売り切れるシーンがよく描かれるじゃないですか。それはどんなに美味しいんだろう、と。すごく食べてみたかったんです。それで日本に来てから食べてみたんですけど、私の口には合いませんでした(笑)。私、焼きそばは塩味のほうが好きなんですよ。そもそも中国にはソース味の焼きそばがないので……。

 日本の月はまるいと思っていても、実際に来てみたら、まるくないと思うときもあるはずです。この焼きそばパンみたいに。そういったことを、ところどころで伝えたかったんですよね」

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主人公・夢言の机の上の本棚。「漫友」などが描かれており、史セツキさんは「そのまんま私の本棚ですね」と話す

日本と中国を行き来しながらの二拠点生活

 現在、史セツキさんは個人的な事情もあり、日本と中国を行き来しながらの二拠点生活で原稿を描いている。

「日本で賞も取れたので、中国に帰ってマンガを描くことも検討しました。中国語でセリフを書ければ、やっぱり楽ですからね。ただ、いま中国で流行しているマンガを見ると、私はあまり向いていないように思います。ゆっくりと時間をかけて読むような作品よりも、どうやって人の目を止めるかを重視した作品が多いんですよ。でもそこだけに注力すると、なにか大切なものが失われるような気がしています。それからいろいろな通信や表現の制限もありますしね。好きなものを描くには、もっと日本にいたほうがいいのかな、と。その道しかない、と思っています」

 最後に、今後の展開のどのような点に注目してほしいかをうかがった。

「人間ドラマの部分に注目してもらいたいです。人はどういうふうに変わるのか。違う価値観の人がどうやって理解し合えるのか。日本と全然違う考え方の人たちや、違う価値観を、どうやって受け入れようとするか。その姿に注目していただければ嬉しいです」