地下アイドルになけなしのバイト代をすべてつぎ込むオタクだった10代の時期を経て、自分も地下アイドル「ポエトリープ」のメンバーとして活動していた出窓なもさん(24)。
「推す側」時代から罪悪感を感じ、「推される側」になってもその活動は苦しく、割り切れなかったと言います。オタクと地下アイドルはどんな「対価」を払って歪な関係を維持しているのか、話を聞きました。
「え、魔女?」「今日ハロウィンじゃないよ」と笑われたことも
――地下アイドルオタクから、どんな経緯でご自身がアイドルに?
出窓 じつは自分がアイドルになる気は全然なかったんです。キラキラするとか、きゅるきゅるするとか、そういうのが苦手だったので。でもバイトを辞めて塞ぎ込んでいるときに、以前働いていたコンカフェの店長の知り合いから「知り合いのアイドル運営を紹介しようか?」と声をかけられました。
――メイドカフェと地下アイドルは業界が近いですよね。
出窓 そうですね。それで私は人の提案を断るのがすごく苦手なので、とりあえず話だけ聞いてあとでLINEで断ればいいやと思って待ち合わせのカフェへ行きました。でも、いざ会ってみたらいきなり「志望動機は?」と聞かれて、流されてつい「幼い頃からアイドルが好きで……」と答えてしまいました。アイドル志望の私が面接を受ける感じで伝わっていて、そのままアイドルをやることになりました。
――地下アイドルをやるって、どういう生活なんでしょう?
出窓 私は大学へ通いながらだったんですが、月に10日くらい夕方にライブがあって、その練習やチェキ撮影など他の活動を入れて合計15日くらいはしてました。家へ帰っても販売用のチェキにペンで書き込みをしたり、自撮りやSNS投稿、ライブ映像の振り返りなど時間がかかります。私は苦手だったのですがライブ配信をする子も多いですし、地下アイドルは結構忙しいんです。
――「推す側」から「推される側」になって、いかがでしたか。
出窓 私は喋るのが苦手で、要領も悪いので学校の人や母からずっとマイナスの言葉を投げかけられて育ちました。いつも黒い服を着ているから、大学では「え、魔女?」とか「今日ハロウィンじゃないよ」と笑われたり。アイドルになってもカラフルな衣装が苦手で黒ばっかり着てたんですが、今度は「それ面白いじゃん」「かわいいじゃん」って言ってもらえたんです。
――世間的にはマイナスとされる要素でも、地下アイドル界隈では個性になる?
出窓 地下アイドル界隈では地上よりさらに“未完成さ”とか“至らなさ”が愛される要素になるんです。“そういうダメなキャラ”として推しやすいというか。でも私にとっては、ずっと否定されてきた要素が肯定してもらえる経験は新鮮でした。自分の「欠けている」と思っていた部分をだいぶ肯定的に捉えることができるようになったと思います。私は「贖い」という言葉が好きなんですが、アイドルをやっているときは自分にとっての「贖いシークエンス」だったんじゃないかな、と。