「アイドル側が払っている『対価』も実はかなり大きいんですよ」
――搾り取っているという実感はやはりあったんですか?
出窓 「搾り取りたいと思えなかった」というのが正直なところですね。単純にビジネスならできるだけお金をもらうのが正解なんでしょうけど、そこまで仕事だと割り切れなかった、というか。ファンの方に「この子のために行ってあげなきゃ」と思い詰めさせちゃうのが嫌だったし、そうなったら私もその人も苦しくなる。お金を積まれれば積まれるほど、その人が求める自分を演じてしまいたくなりますし。それが嫌だったので「私は私がやりたいようにここにいるから、それが楽しいうちは来て」「いつでも来なくなってもいいよ」みたいなスタンスでした。
――割り切れなかった理由は?
出窓 オタクは4600円を払って26分間だけ推しに会いに来ます(ライブ25分+チェキ1枚で1分の会話)。それはお金で人間関係を買っているようで、歪だと感じてしまいました。でもやってみてわかったのは、アイドル側が払っている「対価」も実はかなり大きいんですよ。
――どんな「対価」ですか?
出窓 自分の人生を狂わせること、です。
――どういうことでしょう?
出窓 地下アイドルの多くは、学歴とかキャリアとか人生設計なんかを全部放り投げてアイドル活動をして、履歴書に書けない空白の期間を何年も作ります。人によっては10年やる人もいます。高校や大学と並行して活動していても、卒業するタイミングでアイドルを辞めて就職するか、人生1回きりの「新卒カード」を手放してアイドルを続けるかの選択を迫られるんです。
「“やりがい搾取”のようになってしまっている側面はある気がします」
――アイドルと「新卒カード」の選択。
出窓 だからどちらを選ぶにしても、流されてアイドルをやるんじゃなくって、覚悟を持って自分の人生を狂わせるのが大事だと思います。狂わせた人生の責任は、自分で負わなきゃいけないので。
だからアイドルとオタクはお互いに対価を払って、出会うはずのなかった運命を捻じ曲げて、お互いの人生を交わらせているんです。
――それだけの犠牲を払って、アイドルはどれだけの報酬を得られるんでしょうか。
出窓 私のいた事務所はかなり良心的な環境を整えてくれていたと思うのですが、業界全体で見ればそういうところばかりでもないと思います。アイドルとして活動できること自体が報酬という側面もあるのですが、それに頼りすぎて“やりがい搾取”のようになってしまっている側面はある気がします。
――チェキ1枚1000円をメンバーと運営で分けて……という話を聞くと、運営している人もそこまで豊かな懐事情ではなさそうな気がしますが、この業界、誰が稼いでいるんでしょう?
出窓 うーん……。正直、誰も儲かっていないんじゃないでしょうか。
――誰も儲かっていないのに続いている?

