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池井戸潤が描く箱根駅伝の魅力「敗者の物語にこそ、希望がある」

池井戸潤が描く箱根駅伝の魅力「敗者の物語にこそ、希望がある」

『俺たちの箱根駅伝』刊行記念インタビュー #3

2024/04/24
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 いよいよ発売となった池井戸潤さんの最新作『俺たちの箱根駅伝』。「週刊文春」連載時から話題沸騰の重厚な作品を、池井戸さん史上初となる単行本上下巻組で展開します。

 発売を記念して、池井戸さんに創作秘話をたっぷり伺うインタビューを敢行! 物語の種はどこから? なぜ箱根をテーマに? などなど、池井戸ファンはもちろん、「池井戸作品はじめの一歩」を踏み出すあなたにも、必読の全3回です。

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背景とセリフで構築する“スーパー群像劇”

――ランナーにスタッフ、テレビ局の関係者と、心情や背景が描かれる主要な登場人物は、ざっと50人近く。名前だけ紹介される人物を合わせると140人以上が登場しますが、書いていて混乱しませんか?

池井戸 そういう“スーパー群像劇”、好きです。これまで書いてきた作品も常に50、60人くらいは登場していたはずで、今作だけが特別じゃない。たくさんの人物を書き分けるのはとてもスリリングで興味深い創作です。

 混乱なく読んでもらうためには、名前に特徴があったり、言動が印象的だったり。ひとりひとりに印象的なエピソードなどをきちんと書く必要があります。そういう肉付け作業がおもしろいですね。

――確かに、数々いるランナーたちも、「箱根好きの祖父に育てられた子だな」とか「名前が晴なのに雨に強い」など、知らずに知らずのうちに覚えてしまいます。

池井戸 背景とセリフがキャラクターを形成すると考えていますが、とくにセリフが大事だと思っています。どんなしゃべり方をするかも含めて、読者の心の整理棚にきちんと収まるように気を配っています。

 一方で、背格好とか、どんな服装をしているとか、外見のことはほとんど書いていません。あるとき、別の作品をドラマ化しようとしたテレビ局の方が、「登場人物の外見を小説から拾おうとしたら、ほとんど書いてなくてびっくりした」と言っていました。読んでいると想像で補っているから気がつかない方が多いんですが、実際に書いてないんです。むしろ、意識的に書かないようにしている。読者の皆さんが、それぞれの経験にそった想像力でイメージを造形してくれたら、それが一番うれしいです。