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池井戸潤のダークでスリリングなミステリが映像化決定!

池井戸潤のダークでスリリングなミステリが映像化決定!

短編集『かばん屋の相続』解説

2024/04/18
note

 銀行に勤める男たちが出会う様々な、困難と悲哀を、名手・池井戸潤が6つの短篇で綴った文庫オリジナル『かばん屋の相続』の映像化が決定――これまでも『半沢直樹』『花咲舞が黙ってない』『シャイロックの子供たち』など、銀行を舞台にした、数々の大ヒットを打ち立ててきた池井戸作品。待望の次なる映像化作品を解説する!

『かばん屋の相続』

強靱

 池井戸潤の小説を読むたびに思うことがある。

 小説とは、主人公がいて、主人公のためのストーリーがあって、彼/彼女を取り巻くその他の脇役たちがいて、それで成り立っているのではないのだと。

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 池井戸潤の小説では、脇役たちもまたしっかりと生きている。主人公と同じレベルで生きているのだ。そうした人間たちが交錯するなかでドラマが生まれてくる。それをある人物の視点から書き起こしたのが池井戸潤の小説といえよう。

 特に本書『かばん屋の相続』のような短篇集では、主役と脇役の登場比率に極端な差異がない分、その特色が顕著だ。極論すれば、本書の全六篇、いずれも池井戸が主役に設定した人物以外を主役としても成立してしまいそうなのである。言い換えるならば、本書の各作品は、脇役の視点から物語を見つめ直すと、張りぼての裏側が見えてしまったり、登場人物のぺらぺらな薄さが露呈してしまったりするような小説ではない。存在感たっぷりな、個々の人生をそれぞれ生きてきた登場人物たちがぶつかり合って生まれる、極めて強靱な物語なのである。