4月13日からスタートのドラマ『花咲舞が黙ってない』。
今田美桜が演じる花咲舞が、大手銀行を舞台に不正を見逃さず、弱い立場の人たちのために立ちあがる痛快インターテインメントだ。
放送を記念して、池井戸潤の原作『花咲舞が黙ってない』(中公文庫/講談社文庫)と『不祥事』(講談社文庫/実業之日本社文庫)に収録されている、文庫解説を全文公開する。(全3回の第3回)
文庫本が書き込みでボロボロに…
まず初めに、私が池井戸さんの小説の解説執筆を依頼されるなどということは全く想定外で、話をいただいた時に躊躇してしまったことを告白する。映像で表現するのが私の仕事であり、文章となると畑違い。ましてや池井戸さんが書いたものに対して何かを述べるなど、考えただけでも重荷である。
だがこの二年あまり、『不祥事』という小説と私ほど向き合った人間もいない(実際、私の持っている文庫本は書込みだらけでボロボロだ……)と自負しているので、意を決して受けさせていただくことにした。解説というよりも、ドラマ「花咲舞が黙ってない」の作り手から見た『不祥事』、という内容になると思うがご容赦いただきたい。
私が初めて『不祥事』を手にしたのは、二〇一三年。池井戸さんの小説でひとつだけ女性主人公ものがあると知ってすぐに購入し、どんな女性なのだろうと期待しながら一気に読んだ。そして、その主人公・花咲舞が、期待をはるかに超える魅力的なキャラクターだったことが、私にとってはすべての始まりだった。決して妥協せず、あきらめず、不正を正そうとする彼女の言葉が胸に刺さる。これは面白いドラマになると直感し、ぜひ自分の手で映像化したいと思ったのもその時だ。
誤解していただきたくないのは、ただ小説が面白いからドラマにしたいと思ったのではない。私はこれまで三十本近くの連続ドラマを手掛けているが、常に「このドラマを世に出す意味」というものを考えている。誰もが気軽に見られるテレビドラマは、見た人へ与える影響力もとても大きい。だからこそ、それを作っている者には、大きな責任があると感じている。『不祥事』に心動かされたのは、そこで描かれているテーマに共感したからだ。もっと簡単に言えば、間違っていることに「間違ってる」とはっきり言う花咲舞の言葉に、今、世の中に伝えたいメッセージが詰まっていると思ったからである。