古くから劇場アニメ作品に関わらず、さまざまな劇場公開作品において、鑑賞時に作品にまつわるグッズを配布する、いわゆる「特典商法」が実施されてきた。ゲームの特別なデータや原作者による描き下ろしコミックなどの冊子、ポストカードやステッカー、キーホルダーなどその種類は多種多様だ。近年では週替りで配布するグッズが変わることで作品のファンが毎週劇場に足を運び、それが興行収入の増加に繋がるケースも散見される。

『名探偵コナン』の興行収入は右肩上がり

 一方で、2023年には映画館で働くネットユーザーが匿名で「映画館で働いているんだが、特典商法に疲れた」と題したブログを公開し、映画ファンの間でその是非について議論が起こるなど、近年の映画シーンを語る上でその是非を問わず欠かすことの出来ない要素である。

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』ポスタービジュアル(劇場版名探偵コナン【公式】Xより)

 そんな中で特典商法を実施せずに、邦画史に残るヒットを毎年樹立しているのが劇場版『名探偵コナン』シリーズだ。

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 劇場版『名探偵コナン』シリーズでは僅かな例外を除き、28年間の歴史の中でほぼ一貫して特典商法を実施していない。その一方で、2022年の『ハロウィンの花嫁』は97億円、2023年の『黒鉄の魚影(サブマリン)』は138億円、そして昨年の『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』では158億円の興行収入を記録。シリーズ歴代の最高興行収入を更新するだけでなく、『100万ドルの五稜星』は日本の歴代興行収入ランキングで14位となる記録を達成した。これは『崖の上のポニョ』や『すずめの戸締まり』といった大ヒット作をも上回る順位となる。なぜ『名探偵コナン』シリーズは特典商法を実施せずとも毎年のように記録を伸ばし続けることが出来るのだろう。

 まずは、改めて『名探偵コナン』という作品の概要を振り返りたい。原作コミックは1994年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載中、テレビアニメ放送は1996年から読売テレビ・日本テレビ系列にて放送中だ。劇場版シリーズは、1997年から毎年4月の公開が恒例となっている。

 高校生探偵の工藤新一は幼馴染の毛利蘭と遊園地に遊びに行くが、そこで黒ずくめの組織による怪しげな取引現場を目撃する。取引を見るのに夢中になっていた新一は、もう1人の組織のメンバーが背後から近づいていることに気づかず、襲われる。毒薬を飲まされ、目を覚ますと身体が小学生の姿に縮んでしまっていた新一は、自分の正体を隠し江戸川コナンと名乗り、蘭とその父である探偵・毛利小五郎の家に居候しながら組織の正体を探るというストーリーだ。