『ONE PIECE』にも『鬼滅の刃』にも真似できない手法

 こうした原作コミックとの連動や、原作に先駆けたサプライズ要素を盛り込めるのは、『名探偵コナン』ならではの事情がある。本作は、新一と黒の組織の対決という太い軸があるものの、基本的には1エピソード完結型で進むため、劇場版で登場したオリジナルキャラクターや展開を盛り込みやすい。

 反対に、『名探偵コナン』と同じく原作コミックが100巻を超え、劇場版作品も15作に渡り制作されている『ONE PIECE』は、章立てでストーリーが展開する都合上、劇場版やテレビシリーズのオリジナルキャラクターを原作に盛り込むことは難しい。『名探偵コナン』ならではの構造が、本シリーズを稀有な存在にしていると言えるだろう。

『名探偵コナン』原作者の青山剛昌(名探偵コナンカフェ公式Xより)

 また、劇場版『名探偵コナン』シリーズは、原作者の青山剛昌が制作に大きく関わっていることも特徴だ。その関わり方は多岐に渡り、制作の起点となるネタ出しから細かなセリフ・脚本の調整、さらには原画の執筆まで実に幅広く、そして深い部分まで制作に携わっている。原作者が積極的に劇場版シリーズに携わることで、原作との連動がしやすくなっているのだ。

ADVERTISEMENT

 再び『ONE PIECE』と比較すると、『ONE PIECE FILM RED』などのタイトルに“FILM”が冠される作品には、原作者の尾田栄一郎が製作総指揮として関わっており、『コナン』同様に一部の設定の先行開示などが行われるものの、設定としてはあくまでも原作のパラレルワールドとなっており、原作の連携という点においては『名探偵コナン』よりも若干弱い印象は否めない。

 構造上の連携の容易さに加え、より積極的に原作者が制作に携わることで、劇場版シリーズを細かなニュアンスや作品全体のムードに至るまで、原作と遜色ないものに仕上げているのだ。

 こうした原作と連動した施策、観客へのサプライズが『名探偵コナン』のディープなファン、いわゆる“コナンフリーク”を2度、3度と劇場に足を運ばせる理由になっており、「特典商法」を使わなくとも興行収入を伸ばせる理由のひとつになっていると言えるだろう。