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舞と相馬のコンビが醸し出す温かい空気

 花咲舞が務める臨店指導の仕事は、事務処理に問題を抱える支店を指導し解決に導くという地味なものだ。この、決して派手な事件とは遭遇しそうにない部署の物語なのに、舞が行くとそこでは必ず何かが起こる。というより、普通なら見過ごしてしまうような出来事でも、舞は放っておけなくて、ついつい首を突っ込んでしまう。

「辞めていった女子行員たちにだって、守るべき人生があるんですよ」

「あんたみたいな勘違いした銀行員がいるから、世の中の人から銀行が誤解されるのよ。目を覚ましなさい!」

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 銀行のような堅い職場で、入社五年目の女性行員でありながら、どんな相手にもストレートに言葉を吐き、時には平手打ちも厭わない。実に痛快。こんな部下がいたら嫌だなと思うほど破天荒だが、そこがいい。

 池井戸さんからドラマ化の承諾を受けた私が最初に手掛けたのは、この花咲舞役のキャスティングだった。正直言って難しい役である。いくら正論とはいえ、二十代の女性が目上の人たちを一喝するなど、小説と違って実写でやると伝わり方がリアルになってしまい、視聴者から嫌われかねない。数多くの女優の中から、私が真っ先に思いついたのが杏さんだ。NHKの朝ドラ「ごちそうさん」でヒロインを務め、文字通り老若男女から愛されている杏さんならば、実写版・花咲舞として誰からも受け入れられるに違いないと直感したのだ。

 

 杏さんに出演していただけることになり、初めて会った日のことは鮮明に覚えている。その頃はまだ「ごちそうさん」の撮影中だったにもかかわらず、すでに原作を読み込んでいてドラマの方向性についてあれこれ質問を受けた。仕事に取組むその真摯な姿勢に花咲舞の姿がダブって見え、杏さんにお願いしてよかったと心から思えた。

 次は、相棒とも言える上司の相馬健。この役もすぐに閃いて上川隆也さんにオファーした。硬軟様々な芝居ができる上川さんこそ、飄々とした相馬にぴったりだと思ったし、何より、杏さんと上川さんが並んでいる姿を勝手にイメージしたら、この二人以外は考えられなくなった。

 私にとってベストな組み合わせの二人が決まった時に、ドラマの土台ができたと言ってもいい。実際に、杏さんと上川さんのコンビネーションは描いていたイメージ以上に素晴らしく、二人の人柄も相まって撮影現場は常に明るく和やかだった。舞と相馬のコンビが醸し出す温かい空気は、画面を通じて視聴者の方々にも届いたのではないだろうか。