文春オンライン

「遺書書けよ」、スパナで殴打、財布を海へ捨てる……海上保安庁の新人男性(20)の“イジメ自殺”を第一発見者の元同僚が告発《「巡視船ひさまつ」の地獄》

note

 そして、6月30日の午後6時45分頃。

「食事の準備の時間なのに、佐藤がいつまでたっても来ないので、寝過ごしたのかもしれないと私が呼びに行きました」(A氏)

 部屋は、巡視船の最下層で、食堂の下の階に位置する。広さわずか5畳ほどの部屋は窓がなく、電気をつけないと昼間でも真っ暗だ。A氏が階段を降り、部屋へ向かうとドアが不自然に半開きになっていた。洗面台用の灯りか、室内は薄明るい。ドアから覗けた机にも、正面の2段ベッドにも佐藤さんの姿は見当たらない。

ADVERTISEMENT

「トイレかな?」

 踵を返し、船内に2カ所あるトイレを探してみたがどちらにもいない。

「入れ違いになったかな」

 再び部屋に戻ると、半開きのドアの奥で、小さな黒い丸椅子が倒れていることに気づいた。

 丸椅子を片付けようとA氏は部屋に足を踏み入れた。そこで、ようやく天井から吊り下がった佐藤さんの姿に気がついた。

スマホには『みんな迷惑かけてゴメン』と、送信されずじまいのメールが

「『佐藤! 佐藤!』と叫びながら、両足を抱え、なんとか下ろしてあげようと持ち上げたのですが……。彼のスマホには『みんな迷惑かけてゴメン』と、送信されずじまいのメールの下書きが残っていたそうです」

 大甘処分に疑問を感じ、告発に至ったA氏はそう言って悔しそうにうつむいた。

海保は取材に対し、パワハラ自殺の事実関係を認める

 遺族の悲しみはさらに深い。佐藤さんの祖母は、涙ながらにこう訴える。

「ウチは仕事で父親が家に帰れるのは年に1回ぐらい。母親が女手一つで3人の子育てをしてきた。優しいあの子が親代わりで、中学生の妹と小学生の弟の面倒を見てきた。あの子を亡くしたつらい思いは、他の誰にも味わってほしくないよ。あの子は『バアちゃん、バアちゃん』と人懐っこくて優しい性格でね……」

 海保は取材に対し、パワハラ自殺の事実関係を認めた上で、以下のように回答。

「(公表に時間がかかったことに関し)当時の状況確認等を把握すること及び慎重かつ厳正に調査を行ったことから必要な時間を要したものです。(処分について)事実関係を厳正に調査し決定したものであり、公務秩序維持の観点から適正な処分であると考えています」

 海保が守るべきものは何なのか。

「遺書書けよ」、スパナで殴打、財布を海へ捨てる……海上保安庁の新人男性(20)の“イジメ自殺”を第一発見者の元同僚が告発《「巡視船ひさまつ」の地獄》

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー